煽り煽られ


部屋を照らしている無機質な灯りが遮られ、私の上に影を落とす。見上げた先の伏黒君はその羨ましいほどの睫毛に囲まれた瞳を細めていた。

「我慢してんですから、あんまり煽んないでください」

何をか、なんて影の中で光るその瞳を見れば明らかだった。



思いが深くなればなるほど我儘になる。好きな人を見つめていたい。話したい。付き合いたい。デートがしたい。手を繋ぎたい。キスがしたい。もっともっとその先も。
でもそんな私の気持ちとは裏腹に私達の関係はあるところで停滞していた。どれだけ二人の時間を重ねてもその一線を超えるには至っていない。それはきっとそれだけ彼が私を大切に思ってくれている証なのかもしれないけれど、それが私の意思を尊重しているのかと言われれば答えはノーと言わざるを得ない。
そう、だって私は我儘だ。彼を誰にも取られたくはないし、私だけを見ていて欲しい。もっともっと一緒にいたいし、触れられたい。人にはしたないと思われようとそれだけ彼への思いが強いのだと私は胸を張れる。
大好きだよ、伏黒君。しょうがないですねって言いながらする少し困ったような笑顔も、先輩って呼ぶ柔らかい声も。私を映すその瞳も、私を包むその手も、私に触れるその唇も。

だから今の状態から一歩を踏み出したくて行動を起こした。何か少しでも変化が起きればと。そして気が付けば視界は反転し、私の体はベッドへ沈んでいた。



初めて向けられたその強い瞳を不思議と怖いとは思わない。それよりも嬉しさが勝っていた。今私は私の知らなかった彼の姿を知ることが出来たのだから。
手を伸ばし、垂れ下がった彼の服の裾を掴むと小さく息を飲む音がした。

「っ――先輩、だから」
「伏黒君」

「煽ってんだから……我慢、しないでください」

ごくりと上下した彼の喉仏に、思わず知らず知らずのうちに引き結んでいた口元が緩む。頭を下げた彼からくそという声が聞こえた直後降ってきた唇に、私と彼の体はさらに深く沈んでいった。



2021.04.20


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