理由なんて必要ない


右斜め前で体の動きに合わせてゆらゆらと揺れる伏黒君の手は最近更に逞しくなったように思える。思わず私の手を翳してみると大きさも厚さも指の太さも私より一回りも二回りも大きい。

手、繋ぎたいなあ。

まだ私は彼の手の温かさもその手触りも知らない。やはり同級生という関係から変化して恋人という関係になればそう思ってしまうのも仕方のないことで。
言っても良いかな。断られないかな。

「伏黒君」
「どうした」

くるりと振り返った彼の瞳をじっと見つめて様子を伺う。野薔薇曰く私といる時の伏黒君は眉間の皺の深さが段違いで見ててなんだかむずむずすると言われたけど本当かな。

「あのですね……手を、繋ぎたいなあと思いまして」

――あ、野薔薇。やっぱりそれ違うみたいだよ。
私の発言に伏黒君はぴたりと動きを止め、その眉間には深々と皺が刻み込まれた。

「駄目、かな? ごめん、それなら――」
「違う、待て……悪い、ちょっと待ってくれ」

そう言うと伏黒君は私の反対側に顔を背け、手で顔を覆う。少ししてまたこちらを振り返った伏黒君の眉間にはまだ深い皺が残っていた。

「……ほら」
「良いの?」

差し出された手を取っても良いのか悩む。決心が付かずに拳を握りしめていると、その私の手に伏黒君の手が触れる。優しく拳が解かれ、ついに私の手はすっぽりと伏黒君の手の中に収まった。
行くぞと引かれた腕に慌てて止まっていた脚を動かした。先程よりも少しだけテンポの速い動きで、隣に並んで歩く。

「別に断らないし、嫌だとも思わない」
「……うん」
「繋ぎたいっていうならいつだって構わない」
「本当に? 理由もなく繋ぎたいとか言っちゃうよ?」
「……別に理由とかいらないだろ」

その言葉に今度は私がぴたっと動きを止める番だった。
 
「ふふふふ」
「笑うな」
「だって」

だってだって伏黒君からそんな言葉が聞けるなんて思わないじゃない。嬉しくてにやけてしまうのは無理もないのです。
そんな私に伏黒君はまたそっぽを向いてしまったけれど髪の隙間から見える赤く染った耳にまた嬉しくなって繋がった手を握り締めた。

「じゃあ野薔薇や虎杖君達の前でも遠慮しないからね」
「……いや、それはちょっと」
「もう駄目ー」



2021.01.28
2021.04.08


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