白旗をあげるのはいつか


日常で何気なく交わされる会話のように自然に。特別な雰囲気も何もなく突然、伏黒に告白された。

「……聞き間違い?」
「そう思うのか?」

混乱する頭の中で繰り返される聞いたばかりの好きだと言う彼の声に、それはやはり現実なのだと思い知らされる。

「なんで?」

驚いただとか嬉しいとかという思いよりも先に何故という思いが先行する。今までに私と彼の間にそんな気持ちが芽生えるような出来事があっただろうか。

「なんでと言われても……そう思ったんだから仕方ないだろ」
「そ、そうですか」

彼が私のことを好きだと思う気持ちを自覚した、ということはどうやら本当に本当のことらしい。

「まあ、それだけだ」
「えっ、言い逃げ……」

そのまま立ち去ろうとする彼に思わずそう言葉が零れた。私の声に足を止めて振り返った彼の表情はいつも通りで、どう思っているのか私には読めなかった。

「今のお前から返事はいらない」

お前、別に俺のことそういう対象として見てないだろ。

そう確信した物言いにどくんと心臓が音を立てる。告白の事実を認識した私が最初に思ったのはどうすれば今の関係を維持出来るのかということだった。
伏黒のことは好きだ。術師としての強さには素直に憧れるし、普段の態度からは分かりにくいかもしれないがああ見えて優しいところもある。案外ノリが良いところもあったりする。そういう部分は好ましいと思う。でもそれはあくまで友達として、仲間として。親愛や友愛に他ならない。虎杖や野薔薇に対する好きと変わらない。
これを切っ掛けに彼との関係が破綻することは避けたいと思った。でも無責任に彼の思いを受け取るわけにもいかない。今の私にはその思いに返せるものが何もない。

「あー……別に責めてるわけじゃないからな」
「……うん」

申し訳なさから俯く私に彼の言葉が降ってくる。やっぱり、彼は優しい。

「今は、いらない。けどすぐ返事は貰う」
「えっ」 

「すぐに私もって言わせてやる」
「精々意識しろ。俺ばっかりお前のことが気になるなんて不公平だろ」

口角が上がって一瞬変化した表情に呆気に取られる。その宣言通り、きっと彼に翻弄されて私が白旗をあげる未来がそう遠くないうちに来る。私はそんな予感がしてならなかった。



2021.01.05
2021.04.08


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