ハグをする



▽ハグをする


カーズ様、私はもう長くありません。最後に貴方の役に立ちたいのです。もう大したエネルギーにはならないかと思いますが…どうか私を"食べて"ください。
…ただ、最後に私のわがままを聞いてくださいますか?命が終わる瞬間を貴方の腕の中で迎えたいのです。

ただ黙って私の話を聞いていたカーズ様がこちらへと腕を伸ばした。私はゆっくりと目を閉じる。あぁ、やっと…この方の役に立てる。なんと幸せで素晴らしいことだろう。
ただの人間よりは長命ではあったが、何故だか私の一族は短命が多かった。その例に漏れず、私も体が弱かった。食事から摂ったエネルギーを上手く利用出来ず、あまり出歩かない日々。カーズ様はそんな私を外の世界へと連れ出してくれた。カーズ様の野望が成就するその瞬間を、隣で見守っていたかったが…恐らくそれはもう叶わない。なんの力も持たず、足でまといでしかなかった私。どんな形どんな方法であれ、私がカーズ様の糧となれるのなら…。
逞しい腕に体を包み込まれる。最初で最後だからと、控えめに自分の腕を大きな背に回した。もう上手く血を巡らせる力さえ衰え、体温の低い私とは違う、温かい体。その温かさを忘れまいと腕に力を込めた。

だが、いくら待てども私の体が取り込まれていくことはなかった。何も変わらず、私はまだ元の形を保っている。私はもう食糧としての価値もなくなってしまったということだろうか。
申し訳ございません、カーズ様。情けなく震えた声を漏らすと、カーズ様の腕の力が強くなったような気がした。



Twitter 2019.08.19

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