付き合い始めのデート



▽付き合い始めのデート



それは彼が特別人目を引くからなのか恋をしているからなのか、人混みの中でも彼をすぐに見つけられる。足早に近付いてくる彼と目が合い、控えめに手を振った。待たせたかと聞いてくる彼に今来たところだと告げる。そのやりとりがいかにもデートの待ち合わせをしていましたと改めて意識させられ、高鳴る鼓動を落ち着かせるために胸に手を置いた。
いつもは自信たっぷりな彼が視線をさまよわせながら照れくさそうに誘ってきたのは先週のこと。それから毎日嬉しさやら緊張やらでソワソワしていた私をからかう友人達の手を借りながら準備を整え、やっと今日を迎えたのだ。いつもより時間をかけて髪型を整え、メイクをして、この日のために新調した服を着てきた。褒め上手の彼はいつもなんでもないようなことにも言葉をくれるけど、今日はどんな言葉をくれるだろう。照れくささから顔が見れず彼の肩のあたりを見つめていたけれど、一向に彼からの言葉はない。不安になって恐る恐る視線を肩から顔の方へ向けてみると彼は口元を覆い、その視線は明後日の方を向いている。それからぼそっと聴き逃してしまいそうなほど小さな声で聞こえた"可愛い"の言葉に、なんとか落ち着かせていた鼓動がまた速くなった。



きっと彼は女の子とのデートなんて慣れっこで、緊張してるのも私だけだと思っていた。でも待ち合わせの時の様子、いつもより交わらない視線。そして極めつけは今し方珍しくマジックを失敗させて項垂れる彼の姿。そんな彼を見て私は先日からかうようにシーザーから伝えられた言葉を思い出していた。

―あいつ、余程今度のデートで君を喜ばせたいみたいだよ。オレに相談しに来る程にね。

…どうしよう、私今すごくだらしない顔してるかもしれない。これ以上口角が上がるのを防ぐため手で口元を押さえるが、抑えきれずに出てしまった笑い声を聞いて彼は顔を上げた。バツの悪そうな顔で頬をかく彼が何だか可愛く見えてしまう。そっか、緊張してたのは私だけじゃあないんだ。

「これ、貰っていい?これが良いの」

先程彼の手から生み出された一輪の花。私の手に渡る前にテーブルの上に落ちてしまったその花の花冠(かかん)をすくい上げ、笑いかけると彼は少し驚いた顔をした。視線を彼から花に移し、見つめていると花を持つ私の手が彼の手に包まれる。パッと顔を上げると目の前には彼の顔。えっと言う驚きの声をあげる間もなく気付いたら私の唇は少しカサついた彼の唇に塞がれていた。
すぐ唇は離れていったが包まれた手はそのまま。私達は通りかかった見知らぬおじさんに冷やかされるまでお互いに顔を上げることが出来なかった。



Twitter 2019.12.08

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