一緒にいきたいよ夢主との邂逅



▽一緒にいきたいよのその後で夢主とイルーゾォが出会う



女は戸惑いの視線を向けていた。突然目の前に男が現れ、全身を観察するように見られては戸惑うのも無理はない。だが、いくら観察しても納得がいかない。これが本当にホルマジオが惚れ込んだ女だというのか。以前聞いた通り、確かに普通、至って平凡な見た目。胸がでかいわけでも顔が特別良いわけでもねぇ。

「おまえ、ホルマジオの女だろ?」
「…どなたのことでしょう?」

ホルマジオの名前を出した瞬間に表情が強ばった。すぐにそうだと認めなかったのは賢い選択だ。自分の存在がオレたちに敵対する人間からすれば、利用しやすい道具だと理解は出来ているらしい。体を縮こませ、怯えながらも隙を見せないよう、こちらをずっと見据えていた。

「心配しなくても何もしねぇよ。そもそもそういうつもりならこんな人目のある所でなんか接触しねぇだろ」

両手を上げて何もするつもりがないことを伝えると、女の表情が少しだけ和らいだ。続けて仕事仲間ということを伝えれば、失礼をしたと女は頭を下げた。あまり経験したことのない丁寧な相手の態度が少し面映ゆい。

「あいつが一人に絞ったって言うからどんな女かと思ったらよォ」
「…期待外れでしたよね」
「まぁ、そうだな」

率直な感想を告げると女は苦笑した。そして思い悩むような表情をした後、ゆっくりと口を開いた。

「本当はずっと悩んでいました。彼の気持ちをもう疑ったりはしてません。でも私、何の役にも立てません。秀でた能力も容姿もありません。それどころか彼の足でまといになるかもしれない。それが不安なんです…」

今まで誰にも相談出来ずにいたのだろうか、初対面のオレに話す程に思い悩んでいたのだろうか。

「おまえはどうしたい、どう思ってるんだ?」

女は震えていた小さな手をぎゅっと握り締めるとオレに真っ直ぐに視線を向けた。

「…それでも私は彼を愛しています。そういう危険な仕事だからこそ、彼が安心して帰ってこられる場所を作ってあげたい、そういう存在になりたいんです」

なるほど、こういう所にあいつは惹かれたのか。きっとこの女はオレたちがもう忘れてしまった人の温かさを思い出させてくれるだろう。そういう存在を見つけられたあいつが、少し羨ましくなった。

「確かに足でまといになることもあるかもしれねぇ。それでもおまえはあいつに選ばれたんだ、それぐらいの自信は持ったらどうだ?」

女はオレからこんな言葉が出るとは予想もしてなかったのか、口を開けてポカンとしていた。その表情に柄にもないことを言ってしまったと気付き、気まずさから頭をかく。
もう当初の目的は果たせたんだ、これ以上ここに残る必要はない。さっさと帰ってしまおうと体の向きを変えると、女から声をかけられた。

「あの、ありがとうございます…!また会えますか?今度は彼も一緒に」
「誰が付き合いたてのカップルなんかと一緒に会うかよ」

歩みを止めずにそう答えれば、背後から女の笑い声が聞こえた。少しして盗み見れば、女はどこかすっきりした表情で人混みの中へと消えていった。
さて今日のことをネタにどうからかってやろうか。知らぬ間に自分の女に会われていたと知ったホルマジオの表情を想像して思わずニヤリと口角が上がる。いい酒の肴が出来たと急ぎ足で帰路についたのだった。



Twitter 2019.10.08


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -