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寝返りを打った際に腰に走った痛みで××は目が覚めた。口では上手いことを言うが、その行動からはあまり××のことを気遣う様子が感じとれないホルマジオとのセックス。おかげで彼が来た次の日に必ず起こる腰の痛みから中々ベッドから起き上がることが出来ない。今朝はそれが特に顕著だった。覚醒するにつれて感じる痛みも徐々に強くなっていき、××はベッドの上で呻き声を上げた。

「腰、痛い...」

声に出した所で痛みが和らぐわけもないが、思わず口からそんな言葉が出ていた。それでもなんとか起き上がろうと少しずつ慣らすように体を動かしていると腰を撫でられる感触に、痛みも忘れて後ろを振り返った。

「は?...えっ、ん?...なんでいるの?」
「今すげぇ顔してたぞ、おまえ」

自分の顔を見て吹き出したホルマジオに××はさらに混乱する。何故、ここに彼がいるのか。共に朝を迎えたのは初めてホルマジオに会った時、この関係を持ち掛けられたあの朝以来だった。

「腰痛てぇのか?...そりゃあ昨日あれだけアンアン鳴いて、ッテ!」
「ちょっと!恥ずかしいから言わないで!」からかう様に話しかけてくるホルマジオの額を叩く。尚もクツクツと笑うホルマジオに××は羞恥心で顔を染めた。

「そもそも今日は、なんで...」
「あー...オレもそのまま寝ちまったみたいでよォ」
「えぇ、だったら、ッ...!」

体制を変えようと体を動かすとズキっと鋭い痛みが腰に走った。...忘れてた。

「なんだ、オレが介抱でもしてやろうかァ?」
「...いらない」

面白がっているのを隠しもしないで言ってくるホルマジオから目線を逸らした。こんな会話でさえ出来たことに嬉しさが込み上げる。それが表情に出てしまいそうで必死に気持ちを押し込めた。...これ以上は駄目だ。××は痛みに耐えてベッドから降りると、床に落ちている服を拾って羽織った。

「はやく帰って」
「わぁーってるよ」

その言葉を聞いて寝室から出ようとした××だが、あっと言う何かを思いついたかのようなホルマジオの声にベッドの方を振り返った。

「なぁ、オレ昨日の夜からなんも食ってねぇんだよ。なんか飯作ってくれ」
「はぁ!?」

思わぬ言葉に大きい声が出てしまう。何を言ってるんだ、この男は...。
眉を寄せる表情を見ても歯を見せて笑うホルマジオに××はため息をついた。

「食べたらすぐ帰ってよ?」
「へいへい」

××は寝室から出て気持ち駆け足でキッチンへ向かうと冷蔵庫に頭を預けるように項垂れた。

「(ご飯、作るの?私が、彼に?)」

朝を一緒に迎えてご飯を作ってあげて...そんな、恋人みたいなことを?
先程押し込めた気持ちが今度は溢れて止まらない。どうしても上がる口角に××は手で口元を隠した。

「(いや、待って。私そんなに料理上手くないんだけど!)」

慌てて冷蔵庫の扉を開け、中を確認する。どうしようと今度は頭を抱えた××だった。





キッチンから聞こえる音に耳を済ませながら枕に顔を埋める。ホルマジオは咄嗟にあんなことを言った自分に戸惑っていた。
そのまま寝てしまったというのだって嘘だった。昨日の訳の分からない感情をハッキリさせるためにわざと居残った。昨日は酒に酔っていたから、昨日はイルーゾォが余計なことを言ったから。朝になって酔いが冷めたらいつも通りになるはずだ。
そうなるはず、だったのに...今まで見ていたアイツと同じはずなのに、違って見えるだなんて。いつもは自分が置いて帰っていたというのに、逆にオレを置いて出ていこうとするアイツを見たら咄嗟にあんな言葉が口から出ていた。OKの返事を貰うまで内心緊張していたのは気付かれていないだろうか。

「(クソッ...ガキかよ、オレは。ありえねぇだろ...)」

ぜってぇ認めねぇ。

寝室に近付いてくる足音が聞こえ、ホルマジオはベッドから起き上がった。



2019.06.05


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