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その日のホルマジオはどこかいつもと違っていた。腰を抱いてきたホルマジオの瞳は爛々と光り、表情がないのも相まってそんな彼を××は少し怖いと思ってしまった。耳朶を舐めてくる時に漏れた息もいつもより荒く熱い。あまりに強い力で体を引き寄せてくるホルマジオに思わずその体を手で押し返そうとすると掌に感じた感触に××は驚く。同時に耳元で聞こえた小さな呻き声。拘束が緩んで出来た腕の中のスペースで体をねじって××は自分の掌を見る。次いで急いで体を屈ませてホルマジオの腹部を見るとそこは皮膚が抉れ、赤く血で染っていた。

「ちょっと、なんで怪我してるの!?」
「あー...別にどうでもいいだろ」
「良くないに決まってるでしょ!」

声を荒らげた××に呆気に取られてるホルマジオの肩を押さえて無理やりソファに座らせると××は念の為にと買って置いていた殆ど開けたことのない救急セットと洗濯したばかりのタオルを持ってリビングまで帰ってきた。

「痛いよね?こ、こういう時ってどうすればいいの?あ、とりあえず止血しないと...ガーゼ?でもこんなに血が出てるなら先に濡らしたタオルとかの方がいいかな?」
「...とりあえず落ち着けよ。まあまあ出血してるが傷はたいして酷くねぇから」
「むりむりむり!と、とりあえずタオル濡らしてくるね!」

タオルを持ってまた走っていった××。怪我をした本人よりも慌てている××を見てホルマジオは先程までの高ぶっていたものが落ち着いていくらか冷静になった。
今日のように死の危険を感じるほどの仕事の後はこうなることが何度かあった。子孫を残そうとする男の本能からか性的興奮が高まる。そういう時、今までは近くで適当に女を買って発散していたが、相手の女はホルマジオが怪我をしていようが何も言わず、ただ支払われる金に見合う仕事をするだけ。××のような反応をされるのはホルマジオにとっては初めてのことだった。正直始めは面倒臭いと感じていたが、新鮮な反応に少し気恥ずかしくなる。同時に心配されるのも悪くないなと感じている自分がいた。



「ごめん、まともな処置も出来なくて...」

なんとか血を抑え、傷口の保護を済ませたがやはり素人の処置では限界がある。傷口に当てたガーゼには止まりきらなかった血が滲んできた。××はまじまじと処置された所を見るホルマジオに気付かれないように彼の顔を盗み見る。どうしてこんな怪我をしたのか...気にはなるが聞き出すことは出来なかった。今までの言動から薄々感じてはいたがやはり彼は私のような人間が本来関わることがないような世界で生きているのだろうか。

「必ず病院には行ってね」
「大したことねぇって、お前の手当だけで十分だろ」
「駄目!」
「分かった分かった」

そう言うとホルマジオは床に座る××の頭にポンと手を置いて乱暴に頭をかき混ぜてくる。...いつもより雑な撫で方なのになぜこんなに心が満たされるのだろうか。

「...今日はもう帰って休んでて。あとちゃんと怪我治して」
「あぁ?折角来たのに帰すのかよォ」
「......ら」
「ん?」

あまりに小さな声で呟かれたため、聞き取れなかったホルマジオは体を屈めて俯く××の顔を覗き込んだが、××はさらに顔を俯かせた。こんな赤くなった顔を、見せられるわけがなかった。

「また、来てもいいから」



「...しょうがねぇなぁ。一回我慢させたんだ。次、覚悟しとけよ?」

ホルマジオは最後に××の頭をもうひと撫でして部屋から出ていった。××は彼が出ていった扉をぼーっと見つめながら服の胸元を握り締めた。手に伝わってくるいつもより速い心臓の鼓動に自覚せざるを得ない。

「(ずっと気づかないままでいたかった...)」

長い間縁のなかったこの感情に戸惑いつつも、××は理解していた。
彼にこの気持ちを気付かれてはならないと...。



2019.05.15


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