イルーゾォと過ごす初めての夜
こうなるかもと予想はしていたし、もしそうなら私だってそのつもりでいたはずだった。でも私をベッドに押し倒し、覆いかぶさってきたイルーゾォの熱を帯びた瞳に射抜かれて一瞬息が止まってしまう。…こんなイルーゾォなんて私知らない。
*
時は遡り、数時間前。
私達は共同での任務についていた。予定では日が暮れる前には終わるはずだったが、敵の増援や予想以上の抵抗に最後の敵が倒れたのはもう夜も更けた時間だった。長時間の任務ということで疲れも溜まっていたし、汗もかいて汚れた自分達の体を清める為にも今日中の帰還は諦め、どこかで宿を取る事を決めたのだった。
近くで適当なホテルを見つけ、イルーゾォに受付をお願いして私はホテルの外で周囲の様子を窺っていると、なんとも言えない微妙な顔をしたイルーゾォが出てきた。そしてホテルのキーを掲げて私に見せると早く入るぞと踵を返す。あれ…?
「私の部屋のキーは?」
「……一部屋しか空いてなかった」
まさかこんなことになるなんて…。かいていた汗も引いて冷えた体シャワーで暖めながら私は頭を抱えていた。私とイルーゾォは付き合ってはいるが、まだ一夜を共にしたことは無い。それどころか普段からも口喧嘩が絶えず、本当に恋人同士なのかと人には呆れられる始末。今回はそんないつまでも進展しない私達に神様がきっかけを授けてくれたのかもしれない。
…覚悟、決めた方がいいかな。…でもこんなことを思ってるのは私だけだったらどうしよう。私にもそういう欲を起こしてくれてるのかな?もしそうだとしても初めての私に彼を満足させることが出来るのだろうか。
どこかモヤモヤした気持ちのままシャワールームから出るとイルーゾォは部屋をウロウロとさまよっていた。神経質だから自分の部屋以外が落ち着かないんだろうな。声をかけると私が出てきた事に気付いていなかったのか、肩を揺らしてこちらを振り返った。
「イルーゾォ、シャワー空いたよ」
「っ…ああ」
「?…どうかしたの?」
「べ、つに……相変わらずおまえのノーメイクの顔の酷さに驚いただけだ」
「ちょっと!」
あまりの言い草に一発かましてやろうと近付き、いつもさらけ出されているあのお腹に向かって拳を叩き込むと綺麗にヒットしてしまい驚く。いつもなら避けられて馬鹿にされるはずなのに。思わずイルーゾォを見上げると彼は素早く私から目を逸らし、シャワールームへと入っていった。どうしたというんだろうか…。
数十分後、イルーゾォが出てきたが、シャワールームから聞こえていた水の音に緊張が高まった私は恥ずかしさのあまりそちらを見ることも出来ない。それどころかもう自分の心臓の音しか聞こえなくなっていた私はイルーゾォが私の名を読んでることも近付いていることも気付かなかった。
「おい、名前!」
「っ…!」
肩を掴まれてやっとイルーゾォの方を向いた私は視線を奪われてしまう。いつもと違うおろされて掻き上げられた髪、雫が伝う首筋。その漂う色気に悔しいが見惚れてしまった。顔に熱が集まってくるのが分かる。そんな風にずっと見つめる私を見たイルーゾォは何故だか一つ舌打ちをするとそのまま私の体を後ろに倒した。そして今に至る。
*
尚も熱を帯びた瞳で見つめてくるイルーゾォ。ああ、彼も私に欲情してくれるのだなと嬉しい反面、いつもの私たちの間に流れる空気とは全く違うものに戸惑いと不安を覚える。そしてさらに私との距離を詰めようとするイルーゾォに思わず私はその胸を押し返してしまった。するとイルーゾォは少し傷付いたような顔をして短く息を吸い込んだ。
「…オレとするのが嫌だってのか?」
「違うの、イルーゾォ聞いてっ」
「…」
「あーもう!聞けって言ってんの!」
目を伏せて私から目を逸らすイルーゾォの顔を両手で掴んでこちらを向かせて目を見開くイルーゾォに伝える。
「嫌だとかじゃないの。わ、私初めてだし…やっぱり怖くて…。それに…イルーゾォがいつもより格好よく見えて…無理」
聞いてくれないイルーゾォに思わずムッとして言い出したのはいいけど、勢いですごく恥ずかしいことも口走ってしまった気がする。聞いたイルーゾォも目を点にしてポカンとしてたけどやがて唇を噛み締めると腕の力を抜いて私の上に倒れ込んできた。待って、重い重い、こんな大男の体重なんて支えられないから!
私の顔の横に顔を埋めたまま動かないイルーゾォにもう限界だとその背中を叩くが退いてくれる気配もなく、それどころか腕を回して抱き締めてきたかと思えばそのまま私の首筋や耳に短く口付けを繰り返してくる。
「イ、イルーゾォ…」
「…これぐらいならいいだろ。大人しくしとけ」
しばらくの間イルーゾォが満足するまでその状態を続けた後、二人同じベッドで眠りについた。イルーゾォはそれ以上何もしてこなかった。そして次の日、ホテルから出た私達は手を繋いでアジトへ帰るのだった。
神様が期待した結果とは違うかもしれないが、少しだけど私達の関係は変化したように感じる。次のステップに進むのはそう遠くないかもしれない。私の手を包み込むイルーゾォの大きな手を握り締めながら私はそう思っていた。
Twitter 2019.4.17
2019.4.17
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