最高率回復手段


今のは僕の聞き間違いか? 自分自身を疑いたくはないが、何か身体の不調でもない限り有り得るはずがない。ああ、そうさ。そうに違いない。
――目の前のこの女がこともあろうに僕の誘いを断るなんてことは。

「私と何処かへ出掛ける時間を作れるぐらいなら少しは身体を休める時間を作ってください。この間も取材に行ったはずなのにやけにボロボロな姿で帰ってきましたよね? 取材も原稿も落ち着いたなら先生自身も少しは落ち着いてくださいよ」

おいおいおいおい。君、この僕に随分な口を聞くじゃあないか。この僕が自分の体調管理もままならないような男だと思っているのか?

「休日をどう使おうかなんて僕の勝手だろう。君、僕のこと好きなら素直に誘いに乗ったらどうだ」
「だからあえて断ってるんです。私のためなんでしょうが、無理してまでデートに連れて行ってもらっても嬉しくありません。出掛けてたら身体休まらないですよ。デートはまた今度にして今回は家でゆっくりしててください」
「――ああ、そうか。分かっていないようだから僕が親切に説明してやろう」
「はい?」
「栄養バランスの取れた食事を取って十分な睡眠時間を確保することと、一日君の間抜けな面を眺めること。どちらの方が効率的で高い回復効果があると思っている。君に決まっているだろうが」

本当になんて奴だ。決まりきったことを一から説明させやがって。……おい、何を惚けているんだ。口開きっぱなしだぞ、子供か。いいや、聞き分け悪くあんな意地を張り続けてたんだ、子供だったな君は。

「……やっぱり先生が疲れていることがよく分かりました。じゃあお家デートにしましょう」
「なに?」
「それなら妥協します。先生が良いなら前の夜から泊まりがけで。見たい映画があったのでそれ一緒に見ませんか? それに上達した私の料理の腕を披露してあげましょう」
「……ふん、まあ良いだろう。それで納得してやる」
「やった」

くしゃりと笑ったその表情はやはり間抜けだ。彼女のくるくる変わる表情は作品作りへの刺激としてこれからも僕に提供し続けてもらおうか。
まあ、何にせよ交渉成立だ。当初の予定とは違った、やっと彼女も僕の考えを理解出来たよう――。

「……おい、さっきのは別に、あれだ。僕の意見を通すための方便であって本心じゃあないからな」
「あれ、やっと自分の失言に気付いたんですか」
「本心じゃあないからな!」



2022.03.18


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