君が眩しい


前の席でいつもゆらゆらぴょこぴょこと頭の後ろで犬のみてえに揺れていたしっぽがなくなっていた。

「今日は髪おろしてんの?」
「そう。夏の間は暑いからまとめてたんだけど急に寒くなったでしょ? 首元が寒くって」

そう言って彼女は両手で髪を掴み、マフラーみたいに首に巻き付けてみせる。髪型のせいで気が付かなかったが、春頃には跳ねて広がると嘆いていた肩程の長さだった髪が随分と長くなっていた。

「これだけでも結構暖かいんだよ?」
「ふーん」

首を傾けた彼女の動きに合わせて肩から髪が流れ落ちた。その隙間からは微かに細くて白い首筋が見える。――なんつーか、つい昨日まで毎日のように見えていたし、結んでいる時より見える範囲も少ねえのに。

「東方君? どうかした?」
「えっ」

おれの顔を覗き込むために更に角度を付けたせいで顔にかかってしまった髪を彼女は慣れた手つきで耳へとかける。

「……あー、うん。なんでもねえよ」

何だか見てはいけないものを見てしまったような気がして視線を泳がせるおれに気付いた様子もない彼女は「そう?」と少し不思議そうに笑っていた。



2021.10.27


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