私のこと好きなくせに
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やっぱりこの女の頭はイカれちまってんじゃあねえかと思う。
「そんなこと言ったって私のことしっかり好きなくせに」
今の今までお互いに罵倒を浴びせあっていたというのに突然この女は何を言い出すのか。
「急に……何言ってやがる」
おかしな事を言っているのはおまえの方だってのになんなんだ、その表情は。ニヤけた面してんじゃあねえぞ。
「だって私もイルーゾォのことしっかり好きなんで」
つり上がった口角はそのままに、膨らんだ頬は僅かに赤く色付いた。
――ああ、この女はやっぱりイカれてやがる。だがこの女から目が離せないオレは、それ以上にイカれちまってるらしい。
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「やっぱりホルマジオって私のこと好きなんじゃあないの?」
ただの冗談だったのだ。確かにほんの少しの期待が含まれていたけども、ただ彼の驚いた表情が見てみたかっただけだった。彼はくっと小さく喉の奥で笑う。そしてその表情に思わず目が離せなくなっていた私へと手を伸ばした。
「そうだ、よく分かってんじゃあねえか」
伸びてきた指先は私の耳の縁を緩くなぞる。カッと熱を持った私の顔を見る彼の表情はとても優しかった。
2021.10.03
2021.10.27
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