待ち伏せ


「トリッシュなら先生と話があるそうなので少し遅くなると思いますよ」

複数の女子生徒の視線に晒されながら彼はそこに立っていた。隠す素振りも見せず、大きく口を開けて欠伸をしていた彼が私の声をきっかけにその動きを止めた。口は半開き、目の端に涙の粒を残したままで彼はぱちぱちと目を瞬かせる。

「マジ?」
「マジです」

彼を真似て同じ言葉を繰り返すと困ったように首裏を裏を掻く彼に私も曖昧な笑みしか返せなかった。
時折彼女を迎えに来る彼が彼女とどういう関係なのかはよく知らない。そういえば名前も知らない。恋人なのかと以前彼女に尋ねてみたことがあるがすぐさまぴしゃりと否定されてしまった。
そんな彼と面と向かって二人で会話を交わすのはこれが初めて。あくまで私達はトリッシュの、知り合いの知り合いという関係でしかない。待ちぼうけを食らうのを分かっていながらそれを見過ごすのも憚られ、思わず声を掛けてしまったがここからどう状況を展開させていけばいいのかも私には分からなかった。

「なあ、アンタ。この後なんか予定とかあったりする?」
「特には、ありませんけど」
「じゃあ話し相手なってくれよ。一人だと暇だし目立つし、協力してくんね? ほら、お兄さんのためだと思って」

そう言って片目を閉じて笑う彼に今度は私が目を瞬かせる番だった。



それからどれぐらい時間が経っただろうか。正直間が持つのか不安だったが、ぽんぽんとテンポ良く会話を進めてくれる彼、ミスタさんのお陰でそれも杞憂に終わり、会話を楽しむ余裕が出て来ていた。

「……一体何をしているのかしら?」
「トリッシュ」

そんな中、耳に届いた友人の声に振り返れば何故か怪訝な顔をしていた彼女はその視線をミスタさんへと注ぐ。

「遅せえよ。結構待ったぜ、オレ」
「はあ? 何言って――」
「じゃあオレら行くわ。付き合ってくれて助かった、またな」
「あ、はい」

突然途切れた彼との会話に若干戸惑いつつも、こちらに向けられた笑みと軽い動きで振られた手に少し頭を下げて応えた。そしてこちらに振り続ける手と逆の手で険しい表情の彼女の肩を強引に押しながら進んでいく。やがて肩に触れている彼の手を叩き落とすトリッシュとその手を大袈裟な動きで撫でるミスタさんの姿が見え、やっぱり仲良いなとそんな二人を見えなくなるまで眺めていた。






「あたし、事前に遅くなるって言っていたわよね」
「そうだったかあ?」
「とぼけても駄目よ。あの子に話しかけるためにわざとやったでしょう? あたしの大切な友人にちょっかいかけないでもらえるかしら」
「だって頼んでもおまえが紹介してくんねえから。それに今日話してみて改めて分かった。やっぱりオレと彼女はもっと親密になるべきだってな」
「絶対駄目よ!」
「さあてジョルノ達も待ってることだし、さっさと行くぞトリッシュ」
「ちょっとミスタ!」



2021.07.01
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