安眠剤
もう短くなった煙草の煙を肺一杯に吸い込みゆっくり吐き出してから煙草を灰皿に押しつけた。いい加減寝るかと髪をかきあげながらふと窓の外を見れば先程から降り出した雨が酷くなっており風も出てきたようだ。予報によればこの天気は明日も一日続くらしい。明日の任務に支障が出なければいいが…。そう思っていると控えめに扉をノックする音がした。続けて小さい声でオレの名を呼ぶ名前の声が聞こえ、急いで扉を開けるとそいつはパジャマ姿で枕を抱えて立っていた。
「オメー…今何時か分かってんだろうなァ。そんな格好で歩き回りやがって」
思わず強い口調でそう伝えると気まずそうに視線を逸らしながらごめんと小さく呟いた名前に溜息がでたが、取りあえず話を聞くため部屋に招き入れることにした。
「で?なんだってこんな時間にそんな格好でオレの部屋に来た?」
「…風の音が怖くて一人で寝られなくて」
それは一緒に寝て欲しいということか?思わず顔を顰めて名前を見れば枕で顔を隠しながら少し顔を赤らめていた。その仕草が少し可愛いと思ってしまったが、それよりも率直に思い浮かんだことを伝える。
「いい歳したヤツが何言ってやがる」
「うっ…分かってるよ!だからこんなことプロシュートにしか頼めないんでしょ!」
そういうと名前は羞恥でさらに顔を赤くして潤んだ瞳でオレを見つめてきた。その表情に目眩がする。どこでそんな技を覚えてきたのか。そんな表情でそう言われて断れる男がいないことを知ってやっているんじゃあないのか。さらに追い打ちをかけるように不安げな表情でダメ…?と言う名前を追い返すことはオレには出来なかった。
ありがとう、プロシュート。一緒にベッドに入れば名前はそう笑顔で言ってくる。先程のように女の顔を見せたかと思えば子供のように笑う。そんなクルクル変わる表情に思わず笑みが零れてしまった。
これでもう眠れるか?そう聞こうとした時、風が強く吹き窓が大きく揺れるとその瞬間名前はビクリと肩を震わせ、両手で耳を塞いだ。それを見てしょうがねぇなと引き寄せると、自分の腕に名前の頭を乗せ、その腕で片方の耳を塞いでやる。こうすればもう怖い音も聞こえないだろ?
「…こうしてるとプロシュートの心臓の音しか聞こえないね。それにプロシュートの香りを嗅いでるとすごく安心するの」
強ばっていた表情を緩め、そう名前は言った。可愛らしいことを言ってくれるのは嬉しいがこの状況で男を煽るようなことを言うのは感心しねぇな。寝るのを促すように頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を閉じ、おやすみと呟く。ああ、おやすみ。額に口付け、明日目が覚めた時に一番にこいつの顔が見れるという幸福感に浸りながら自分も眠りについた。
Twitter 2019.03.18
2019.03.28
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