どうか離れないで


カーテンの隙間から覗く朝日が覚醒へと導いてくる。まだはっきりとしない意識の中、手探りで隣で眠っている彼女を探す。だが手から伝わってきたのは愛しい彼女の柔らかい肌の感触ではなく、シーツの感触だけだった。瞬時に意識は覚醒し、飛び起きた。隣に彼女の姿はない。心臓の拍動が速くなり、血液が全身へと巡った。脳へも血液を巡らせて、必死に昨夜のことを思い出す。
まさか昨夜のことは夢だったのか?…いいや、そんなはずはない。彼女の表情も声も熱も、全て覚えている。やっとの思いで彼女と気持ちを交し、昨夜初めて肌を重ねた。忘れまいと記憶に刻みつけた、間違いないはずだ。ならば何故ここに彼女の姿がないのか。想像はどんどん悪い方へと向かっていく。その可能性を信じたくなくてオレは部屋を飛び出した。
彼女の名前を呼びながら家中を探し回る。隣の部屋、トイレ、シャワールーム…どこにも彼女の姿は見当たらない。リビングへの扉を開いて見回すが、ここにも彼女の姿はない。呆然と立ち尽くしていると食欲をそそる香りがオレの鼻腔をくすぐった。急いでキッチンの方へ視線を向ければ、見えたのは彼女の姿。料理に夢中で結構な音を立てて扉を開けたにも関わらず、オレには気付いていないようだ。キッチンへ向かい、彼女の体を抱き締める。腕が少し震えていることに気付き、さらに力を込めて抱き締めた。

「メ、メローネ…?びっくりした…どうしたの?」
「…頼むからオレが目を覚ますまでそばを離れないでくれないか?」

良かった…彼女はまだここにいる。オレを置いていなくなんかなってない。
戸惑う彼女の声を聞きながら、浮かんだ涙を気付かれないよう、彼女の肩に顔を埋めた。



Twitter 2019.08.22
2019.08.22


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