共に過ごすために


街に溢れる赤、白、緑。

「もうそんな季節かあ」

この国では最も重要と言っても良い特別な日が近付いていた。

「ホルマジオはナターレ当日、予定とかあるの?」

隣を歩く彼はちらりと視線をこちらへ向けると白い息を吐き出しながら小さく笑った。

「そんな予定あると思うのか」
「まあ、そうだよね。私らみたいなのには無縁かもね」

この国では私の祖国とは違い、家族と穏やかに過ごす日だ。私達の所属する組織にそんな時間を共有する相手がいるような輩は少ないだろう。それは私も例外ではない。

「でもこの時期の雰囲気は好き」

イルミネーションが静かに輝き、街には笑顔が溢れている。私にだって目を輝かせながら街を駆ける子供達を微笑ましく思うぐらいの心は持ち合わせているのだ。

「ヴィンブリュレでも飲むか?」

ふいに彼がある屋台を指差す。微かに香る香辛料が鼻を刺激した。

「ホルマジオの奢りなら」
「しょうがねえなあ」

強面だったけど笑顔はどこか可愛い店主からカップ受け取ると冷えていた指先がじんと暖まった。一口、口に含んで嚥下するとその流れに沿って体の中も熱を取り戻していくよう。

「なあ」
「ん?」
「二十五日、一緒に過ごさねえか?」

彼の緑の瞳が周りのイルミネーションより強く光ったように見えた。

「……それはどういうおつもりで?」
「多分お前が思ってる通りだと思うぜ」

意味を測りかねている私とは違い、再度カップに口をつけた。

「家族にならねえかってことだよ」

確かに彼の言う通り、ナターレを共に過ごすということはそういうことを意味すると言える。けれどもその前に確認したいことがある。

「そもそも……私達付き合ってすらない、よね」
「そうだったか?」

ええ、そうですとも。今だってたまたま一緒の仕事終わりに帰っているだけで、個人的な理由で二人で出掛けたことすらない。そういう話をしたことも雰囲気になったこともなかったはずだ。

「……ちょっと考えさせて」
「しょうがねえなあ。まあお前の準備が出来るまで待ってやるよ」

別にそういう雰囲気になったことがないというだけで、なにもそこに気持ちが芽生えなかったとは言っていない。私の心の中で密かに育まれていたこの気持ちは、彼の様子を見るにきっと見透かされているのだろう。彼の心の中にも同じ気持ちがあるのだと、思ってもいいのだろうか。
彼に倣って私もカップへと口をつける。熱い程だったそれは何故だか少し、ぬるく感じた。



Twitter 2020.12.25
2021.04.08


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