彼専属添い寝屋


呼び鈴の音に導かれて玄関の扉を開ける。するとそこには手書きで書かれた“出張添い寝サービス中”とのふざけた紙を両手に掲げた女が立っていた。

「ちょっと待って! 閉めないで!」

女は扉の隙間に脚を滑り込ませ、抵抗を始めた。この程度の女に俺の力に抗うだけの力は無く、じりじりと靴底が摩擦する音を立てながら扉の隙間は狭まっていく。

「形兆君、ごめんてば。真面目に用があって来たんです!」
「……何の用だ」

ようやく扉を閉める手を止めた俺に女は安心したようにほっと息を吐いた。



「やー、形兆君の部屋に来るの久し振り」
「結局何しに来たんだ、お前は」
「億泰君から連絡貰ってさ、だからこれ」

部屋に案内して改めて用件を聞いてみれば、こいつは再度先程のふざけた紙を俺の顔の前に突き出した。

「『兄貴がよォ、最近あんまり寝てねえみてえでよォ』って相談されて」
「お前それ、億泰の真似か?」
「似てるでしょ。私、億泰君の物真似は免許皆伝してるから」

物真似の出来はともかく、にっと笑ったその顔の間抜けさは弟と重なるものがあった。いや、それよりもだ。

「だからってなんでそれが添い寝サービスになる」
「私の添い寝が形兆君を安眠へと導くのですよ」
「お前の添い寝にそこまでの価値ねえだろ」
「失礼な!」

昔から突飛な発想をする女だったが、ここまでだったとは。本日何度目かの溜息をついた。

「まあ、そんなこと言わずに」
「! おい」

そう言い俺の隣に座ったこいつに腕を引かれ、ベッドに腰掛けていた俺の体がこいつ諸共後ろへと倒れる。

「億泰君だけじゃあなくてさ、私だって心配してるんだよ? 形兆君は頑張り屋さんだから」

俺の体へと回った腕に一度だけ強く力が込められた。そしてぽんぽんとあやすようにその手が俺の背中を叩く。

「億泰君の前では無理だろうけど、私の前では少しくらい気を抜いて欲しいなあ」
「……」
「と思って今日は特別価格で出張サービスに来たのですよ」
「金取るつもりか」

「だってこのサービスは形兆君だけの特別プランだから。365日24時間呼出可能だけど専属料ぐらい頂かないと」

でないと他の人も利用可能にしちゃうんだからねとこいつは俺の胸元で呟いた後、顔を上げて体を伸ばし、自身の唇を俺のへと押し付けた。

「一時間利用で一回頂きますから」

安いもんでしょと笑ったこいつは再度俺の背を叩き始める。億泰といい、こいつといい、なぜ俺の周りにはこうも甘っちょろい奴らばかりなのか。
相も変わらず間抜けな顔でやけに上機嫌なこいつの顎を掬いあげた。

「……これは延長料金を頂いたと思っても?」
「そう思いたいなら好きにしろ」

じゃあそうすると笑うその声を聞きながら俺は静かに目を閉じた。



Twitter 2020.11.06
2020.11.29


back
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -