君がいるならそれだけで


三つ目のコール音が鳴り始めたと思った矢先、それは途切れた。

「ねえ、まだ寝ないの?」
「キミだって起きているだろう」

彼は極端に睡眠時間が短い。もう空が明るくなり始めたかという頃に寝に入り、朝日が昇り切る前に目を覚ます。いつからか彼がちゃんと寝たのか確認の電話を入れるのが習慣になった。だがそれも虚しく彼はいつも三コール以内に電話に出るのだけれど。

「キミもいい加減に寝たらどうだ。もう何時だと思ってる」
「その言葉、そっくりそのままメローネに返すけど」
「オレは良いんだ。いい加減止めないか?こんなことを続けてたらキミが寝られないだろう」
「なんにも良くない……」

心配するのは当たり前でしょう?貴方は放っておくと睡眠どころか食事もまともにしないんだから。

「――ならいい案があるんだ」
「案?」
「ああ、一緒に暮らすのはどうだ?」
「……」

今、彼はなんて言ったんだろう。口を開けて固まったまま返事もしない私を気にも留めず彼は淡々と話し続ける。

「そうすればキミは遅くまで起きていて電話してくる手間もなくなるし、オレも早く寝るよ、キミが毎日隣にいれば」
「えっ、ちょっと待って」
「前から考えてたんだがいい機会だ」
「これ夢かな?私寝ぼけてる?」
「キミが起きたらまた伝える。今日は休みだろう?家で待っててくれ」

「おやすみ」

ツーツーという通話終了音をどこか遠くで聞きながら頭の中で先程の言葉を反芻するとじわじわと気持ちが込み上げてくる。彼が私との関係を先に進めようと考えてくれているとは思わなかった。

「……いやこれが夢っていう可能性もね、まだあるし」

寝よう、いや夢なら起きよう?まだ若干ぐるぐるしている頭を落ち着かせるためベッドに入ったが、やっぱり全く寝付けない。
混乱している私は気付けなかった、彼が今どんな顔をしているのかを。捲し立てるように早口で喋っている時の彼は照れている時だということを、気付いていなかった。



Twitter 2020.07.29
2020.11.29


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