やっぱり彼はずるい人


ずるい人の続き


「電話、待ってたのによォ」

いつもと同じ、注文のカプチーノをテーブルに置くとその男は頬杖をついてこちらを見上げてきた。不満げな声だが、口の端は面白そうにつり上がっている。

「あんな強引に渡しておいて何を言ってるんですか」
「おまえから手を出して受け取ったじゃあねぇか」
「伝票なんですから受け取るに決まってるでしょう」

こちらが不満たっぷりという声でそう伝えれば、彼はくつくつと笑った。
それにつられて私も小さく笑う。本当は連絡しなかったことをもっと責められるかと思っていたが、杞憂だったらしい。彼の後を引かないこういうさっぱりした所は好感が持てる。渡し方は強引だったけども。

「それで、他にも何か言いたいことあんじゃあねぇか?そんな顔してる」
「…特に何もないですよ?」

彼のその発言に驚いた。表情に出てしまっていたのだろうか。確かに、彼に聞きたいことがあった。でも正直に彼に伝えるのは憚られ、誤魔化してしまう。すると彼はじゃあおまえが話してくれるまで粘るとするかとカプチーノのおかわりを注文してきたのだった。





本日三杯目のカプチーノを彼のテーブルへと置く。まだ居るのかと抗議の意味を込めた視線を彼に送っても彼はにやりと笑うだけ。折角さっぱりした所に好感が持てると思っていたというのに、今日は粘るらしい。

「押し時はきちんと押しておかねぇとな」

またも彼に私の考えが読まれてしまったようだ。これ以上気付かれたくなくてトレイを抱えて口元を隠す。彼と接しているといつも私のペースは崩されてしまう。彼はそんな私を見て小さく笑うと届いたカプチーノに口をつけた。
…本当に彼は私が話すまでここに居座るつもりなのだろうか。今日はお客様も少なく長時間居られるのは問題ないが、こんなことで彼の時間を無駄に消費させるのは心苦しい。
意を決してあの、と口を開くと彼はカップを置き、真っ直ぐに私へと視線を向けた。緊張から心臓の鼓動は彼に聞こえてしまいそうなほど速く強い。

「…私が電話しても、またここに来てくれますか?」

彼との連絡手段を得たら彼がこの店を訪れることがなくなるのではないか、なぜだかそう不安になった。彼にカプチーノを届けることがなくなるのではないか、新聞を片手にカップに口をつける彼の姿が見えなくなるのではないかと想像して無性に寂しくなった。まるで彼が私に会いに来るためだけにこの店に来ているというような自意識過剰な勝手な考え。恥ずかしさからやはり伝えるんじゃあなかったとすぐに後悔が押し寄せてくる。
やはり今のは聞かなかったことにと言いかけた私の言葉を遮り、彼が口を開いた。

「オレは会えない時にもおまえを感じていたいし、声を聞いたら会いたくなってまた来るに決まってるだろ」

先程までの余裕たっぷりなものとは違う笑みに目を奪われた。

「分かってましたけど、やっぱり貴方女たらしですね…!」
「人聞き悪ぃな。それはいざ好きな女を口説く時のための勉強だろ?」

おかげで今役に立ってると悪い顔をする彼は残っていたカプチーノを飲み干すと伝票を手に取り、立ち上がった。

「今夜、連絡待ってるぞ」

顔を染めて立ち尽くす私の横を通り抜ける際に彼はそう囁いた。耳朶へのキスを添えて。
私はその場にしゃがみ込むと、トレイで顔を隠した。耳に手を添えると彼の唇が触れた部分だけ熱を持っているかのように熱い。彼の声と唇の感触が頭から離れない。ああ、本当になんてずるい人。それから店長に声をかけられるまで、私はしばらくしゃがみ込んだまま立ち上がることが出来なかった。



Twitter 2019.09.24
2019.09.24
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -