いざ海へ


頭上からじりじりと肌を焼き付ける日差しが照り注いでいる。その強い日差しを受けて私の体も熱を持ち、全身からは汗が滲み出ていた。そんな中、私は改めて自分の姿を見つめた。こんなにも暑いのに、何故私はこんな格好をしているのだろう。
今日は皆で海に来ていた。そのためにトリッシュと二人で悩みに悩んで水着を新調したが、せっかくのその水着がぶかぶかの上着に隠されてしまっている。手は袖の中にすっぽり入ってしまっているし、丈は私の太腿ほどの高さにある。そしてなにより暑い、すごく暑い。脱ごうと試みるが、その度にこれを着せた張本人、アバッキオから鋭い視線を向けられてファスナーを締め直すというのを繰り返していた。

「悪いな、アバッキオの気持ちも察してやってくれ。誰だって好きな女の肌を他の男の前に晒したくはないからな」

パラソルの下で海で楽しそうにはしゃぐミスタ達を膝を抱えながら見ていると、そうブチャラティに言われた。
それは、嬉しいんだけど…。

「ほら、これでも飲んでおけ」

目の前に影が現れ、ブチャラティの方に向けていた視線を移すと、どこかに行っていたアバッキオがドリンクを片手に帰ってきた。差し出されたドリンクを受け取ると彼もシートの上へ腰を下ろした。ドリンクを一口飲むと火照っていた体からスーッと熱が引いていく。しっかり私の好きな味を選んでくる所がこの男のズルい所だ。

「そういえば向こうの方は少し岩場になっているが、あまり人も来ないんじゃあないか?二人で行ってきたらどうだ」

ブチャラティのその言葉に私達は顔を見合わせた。

「行くか?」
「行く!」



ブチャラティの言う通り、こちらの方は岩が多く足場が悪かった。でもそのおかげで人は少なく、確かに穴場かもしれない。平気な顔で岩場を歩くアバッキオに対して私はのろのろと歩いている。そんな私を見兼ねて、彼が手を引いてくれたおかげで先程よりもまともに歩けるようになった。転ばないように両手で強く彼の手を握り、体重をかけているのに彼の体はびくともしない。そこに力の差を感じてしまう。

「うわっ!?」
「っと…どんくせぇな」

踏ん張ろうと足に力を入れたが、逆に足を滑らせてしまった。アバッキオに支えられなければ岩場に顔から転んでいただろう。すると急に腕を引かれ、横抱きにされた。

「アバッキオ?」
「この調子だと向こうに着くまでに日が暮れそうだからな」

意地悪な顔をしてそのように言うアバッキオに私は唇を尖らせた。そんな私などお構い無しにアバッキオは先へと進む。私を抱えながらだというのに先程よりも歩くスピードは速い。確かに私を支えながら歩くよりこちらの方が早く目的地に着きそうだ。
腕の中から彼の顔を見上げているとその首筋から一筋汗が流れ出てきて、何となく見入ってしまう。いつもと違い、髪がまとめられたことによって見える首筋。服の下に隠されている筋肉質な体も今はさらけ出されている。
ブチャラティはああ言っていたが、好きな人を他の人に見られたくないのは私だって同じだ。ビーチに居た女性達にちらちらと見られていたのを彼は気付いているのだろうか。容姿だけで女性の視線を奪っているというのに、それに加えて実は紳士的で優しい所を他の女性が知ってしまったら、私よりも美人な女性が知ってしまったら…。そう思うと、少しでも他の女性の視線を遮りたくてその無防備な首に腕を回して自分の体を近付けた。

「向こうに着いたら、上着脱いでもいい?」

そう言うとアバッキオは分かりやすく顔を顰めた。

「アバッキオに見て欲しいんだもん、水着」

だってそのためにこの水着を選んだのだから。それをろくに見もせずにすぐ上着を着せられたのはああいう理由があろうとも少し、悲しかった。この貧相な体はすぐにはどうにも出来ないけど、彼好みのものを探した。彼のその視線の全てを奪いたかった。

「…他に男がいなかったらな」

先程のアバッキオに負けないぐらい顔を顰めた私を見ても、誰もいなかったらの一点張りだ。

「どっちにしろ、また連れてきてやる。今度は二人で、誰もいない所に」

また?今度は二人だけで?思わずまじまじと彼の顔を見つめているとふいっと視線を逸らされた。聞いたからね、アバッキオ!
打って変わって表情が緩んだ私に、彼の表情も緩んだような気がした。



▽Twitterでのフォロワーさんの企画にてお題を頂き、書かせて頂いた作品

Twitter 2019.08.28
2019.08.29
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