ただ大切なだけ


目を覚ました時に一番に目に入るもの。それが恋人の姿であるということがどれ程幸せなことなのかを、彼が教えてくれた。
普段つり上がっている眉尻は下がり、穏やかな寝息を立てながら未だ夢の中にいる彼の胸に顔を寄せると香ってくる私と同じ石鹸の香り。それに加えてトクントクンと耳に届く鼓動さえも私を幸福へと導いてくれる。だらしなく頬が緩むのが自分でも感じとれた。

「ん、イルーゾォ…好き…」

もっと彼の存在を感じたくて体をすり寄せれば、突然腰に回ってきた腕によってさらにお互いの体が密着した。

「随分素直に甘えてくれるじゃあねぇか」
「イ、イルーゾォ…起きてたの?」

顔を上げて見上げればいつの間にか目を覚ましていた彼と目が合う。先程までの自分の行動を思い出して頬に熱が集まる。思わず両手で顔を覆うと頭上から小さく笑う声が聞こえた。

「あんまり朝から煽んじゃあねぇよ…元気になっちまうだろ?」

耳に唇を寄せられてそう囁かれてしまい、恥ずかしさで頬だけではなく全身が熱を持った。

「まあ、もうなってんだけどな」
「!」

腰を押され、彼の下半身が私の腹部に密着する。服の中で明らかに熱を持って主張するそれ。

「き、昨日した…のに?」
「しょうがねぇだろ、生理現象だ。…それに無防備に寄ってくるおまえが悪い」
「うっ…そんなつもりじゃあ…」
「フッ…起きて飯食うか」
「(あ…)」

いつまでもそういうスキンシップに慣れない私に彼は呆れたりしてないだろうか。不安で胸が苦しくなる。起き上がろうと体を離したイルーゾォのシャツを握ってその動きを止めるとグッと顔を近付けた。届かなくて顎の先になってしまったけど唇をちゅうっと吸いつかせた。
言葉で伝えるなんてとても出来なくて、なんとか真意を読み取ってもらおうと必死にその瞳を見つめ続けた。無言のまま私の顔に手を伸ばしてきたイルーゾォに目をぎゅっと瞑る。

「いたっ!」

返ってきた反応は想像と全く違うもので、指で額を弾かれて思わず声を上げた。

「別に無理しろなんて言ってない」
「…でも、」
「お前が慣れるための時間なんてこの先いくらでもあるだろ?」

これから先も私が一緒に過ごす未来を考えてくれているというイルーゾォのその言葉に、こんなにも幸せを感じるのに涙が溢れる。少しぎこちない動きで背中を撫でてくれるイルーゾォ。私に与えてくれるその愛情に見合うだけのものを私も彼に返してあげたいと思った。

「…ほら、飯食うんだろうが」
「うん、すぐ用意するね」

そう言って笑いかければ少し顔を赤くした彼にまた額を弾かれた。



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2019.05.28
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