「とにかく、あいつが何であんなことしたのか気になってたんだけど、ようやく合点がいったわ。」
未だジンジンと痛む足を気にしないようにしながら、呟いたワイルドタイガーに斉藤は冷や汗をにじませた。
「だから、タイガーはあのレーザー銃を受けてもその程度で済んだのか。」
「そういえば、H01の方は上半身跡形も無く吹っ飛んでましたよね・・・。」
「いくら私の開発したスーツがあっても、まともにあれに当たっていたらその程度では済まなかったところだ。」
ただでさえスーツは前面がほぼ剥がれ落ちて胸部から腹部にかけての火傷と打ち身を負っている体を横目に見ながらの、斉藤とバーナビーの物騒な会話。
もし、そのH01がワイルドタイガーを突き放していなければ・・・想像したIFにワイルドタイガーと楓の顔は真っ青になった。
「だが、これで証明されたということだ。
やはりあの個体には特別なAIが組み込まれていた。おそらく、ロトワングがシステムに手を加えていたせいで常に正常に動作することはできなかったのだろう。だから調べるまで気づけなかった。」
うんうん納得する斉藤に、横に居たベンが疑問顔をした。
「さっきから特別なAIとか何とか言ってるが・・・結局そいつは何が特別なんだ?」
「私もそのAIを知ってから調べたから、見つけた資料以上のことはわからないが・・・実は、バーナビーの両親が亡くなる1年前、ある事故が起きている。
シュテルンビルトブロンズステージでおきた原因不明の爆発事故だ。」
脈略なくいきなり始まった斉藤の昔話に、ワイルドタイガーは口を挟もうとするが、ベンがそれを手で制した。
「多くの死傷者を出した事故の犠牲者の中に、一人身元不明の少女がいた。
その少女は酷い怪我で昏睡状態――いつ目が覚めるともわからない状態で病院に保護されていた。
それを知ったブルックス夫妻は、その少女を引き取り、その少女の脳を電子世界に接続・トレースし、それを人工知能としてアンドロイドに移植しようとした。
つまり、少女をアンドロイドとして目覚めさせようとしたんだ。」
斉藤の言葉に、バーナビーが息を呑んだ。
「じゃぁ・・・」
「そうだ。特別なAI――それはその少女の脳をトレースした、言わば生身の人の意識そのものといっても過言ではない人工知能。
――バーナビー、君は家族に、両親だけでなく君の姉に助けられたんだ。」
「姉?」
驚いたバーナビーに追い討ちをかけるように、斉藤は頷いた。
「ブルックス夫妻はその少女を引き取ったと言っただろう。身元不明で天涯孤独な少女を自分達の養子にしたんだ。当時、少女は18歳。
年齢的に言えば、彼女は君の義理の姉にあたる。」
バーナビーの瞳から、最早枯れたと思っていた涙が、一筋頬を伝った。