ジャスティスタワーの下、シュテルンビルトを揺るがす大事件の事後処理に奔走する警察官や関係者の中で、ようやくひと息つけると互いに微笑むヒーロー達の姿があった。
スッキリした結末とは言えないまでも、犯人は逮捕され、全員怪我はあれども生きている。その喜びは何ものにも代えがたかった。
「君は両親に守られたんだ、感謝しろよ。」
グッと親指を立てている斉藤を前に、バーナビーはパスワードとなった数字の意味がわからないという困惑と自身が両親に何も返せていないという思いで下を向いた。
「もしかしたら、君の両親が君を守りたいと思っていたことを、アンドロイドも知っていたのかもしれないね。」
続けられた斉藤の言葉に、バーナビーをはじめ二人の会話を聞いていたヒーロー達が一斉に斉藤を見た。
意味がわからないとありありと書いてある顔に、斉藤は苦笑を漏らした。
「実は、私がアンドロイド達のセーフティパスワードを解析していた時、私のコンピュータに不正アクセスがあった。」
「不正アクセス?」
問いかけたスカイハイの声に一つ頷いて、斉藤はさらに言葉を続けた。
「ワイルドタイガーのバイタルサインが消えた後、急いで解析作業を進めていたところに、本来接続できない場所からあるデータファイルが送られてきてね。
それがパスワードを突き止めるヒントになったんだ。」
斉藤の横で「あぁ、あれか。」とうんうん頷くベンを横目に、斉藤は面白そうに問いかけた。
「一体どこから送られてきたと思う?」
「父さんと母さんが死んで以来、研究はロトワングが引き継いでいた――なら、パスワードを知ってるのはロトワングということになりますけど・・・」
「あいつがわざわざそんなことするとは思えない。」
バーナビーの考えに同調するように折紙サイクロンも思案顔で呟いた。
「じゃぁ、ロトワング以外に研究にかかわってた人とか!」
「いや、あの野郎がアンドロイドで悪さしようとしてたなんて知ってる研究員はいないんじゃないか。マーベリック以外の協力者も見つかってねぇし。」
現在ロトワングに関わりがない人物にしては、送り先と送るタイミングが良すぎる。とドラゴンキッドに反論したロックバイソンの台詞に、全員その通りだと頷いた。
「だー!もったいぶらずに教えてくれよ!」
痺れを切らしたワイルドタイガーを、満足そうに一瞥すると、斉藤は思いもよらない単語を口にした。
「H01だよ」
「は?」
「だーかーらー、H01!!」
思わず聞き返したワイルドタイガーに、斉藤は拡声器をつけていることも忘れて大声を出した。
おかげで、キーンとハウリングが鼓膜に刺さる。
「正確には、タイガーとバーナビーが倒した個体だ。
さっきメインシステムに保存されていたデータを見てきたんだが、どうやらあの個体にだけは特別なAI――人工知能が組み込まれていたらしい。」
「特別な・・・人工知能。」
斉藤の言葉を復唱したブルーローズの声を聞いた瞬間、ワイルドタイガーは合点がいったような顔をした。
「あいつが特別だったからかぁ。」
「虎徹さん?」
「いやぁな、俺ごとあの黒い奴撃った時にさ。」
そのときのことを思い出して、バーナビーは顔を歪めたが、ワイルドタイガーはそれに気づかずに話を続けた。
「あいつ、俺のこと突き飛ばしたんだ…まるで、自分から遠ざけるように。」
「それは、単に抵抗したんじゃないの?」
ファイヤーエンブレムの問いに、ワイルドタイガーは首を横に降った。
「いや、多分違うと思うぜ。
あいつ「貴方達なら大丈夫です、ヒーローさん。」なんて言いやがったんだ。」
その一言に、その場にいた全員が息を呑んだ。
「あ、何か若い女の子の声だった。」
空気を読まないワイルドタイガーには、愛娘から足を思い切り踏まれるという制裁があった。