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ハンドレットパワーというのは、能力者本人を超人化させるという極めて強力な能力であるが、それは万能ではない。
その能力は何時だって時間との戦い。
普段は分単位でしか持たない能力使用可能時間内に事を解決することに心血をそそぐタイガー&バーナビーではあるが、今回は少々勝手が違っていた。
彼らは未だ時間の制限の中、能力を使用できない状況下で如何にこの事態を解決するか、あるいは能力が回復するまでの時間を稼ぐか、それが問題だった。
相棒の彼らが私こと海老と対峙するのと同時進行で危機的状況に置かれている他のヒーロー達の事を考えるならば、後者を選択する余地はないことは自明の理ではあるが、生憎目の前の二人組は捕らわれているヒーロー達のことを知らなかった。
本当は、私がここであっさりワイルドタイガーあたりに一発KOされてしまうのが一番手っ取り早いのだが、それでは私の後釜――“私”たる「人間らしい感情を理解する人工知能」を持たない本物のH01の登場を早めることとなる。
斉藤さんが未だH01を止める手立てを見出せない今、ここで私以上に容赦ない後釜にバトンタッチするのは非常にマズイと、危うく舌など持たない金属ボディで舌打ちしそうになった。

とにかく、未だ表立ってロトワングとマーベリックに反旗を翻すことのできない私にできるのは、一人一人バラバラに個室に拘束されている他のヒーロー達に絶望を抱かせないように、適当に負けず勝たずを貫いて斉藤さんの解析を補助しつつワイルドタイガー達の能力回復の時間稼ぎをすることくらいだった。
なるべくゆっくりと歩みを進め、牽制するように銃を打っては右腕のブレードで壁面を裂く。
避けることができるように予備動作に時間をかけるが、その一撃は人間に対して行使するにはあまりに強力すぎて、攻撃の余波は着実に彼らを傷つけ、精神的にも追い詰める。
しかしそれだけで時間を稼ぐというわけにもいかず、致命傷にならないように急所をはずして拳で彼らを殴ることは避けられなかった。
空気人形のように軽々と飛ばされてしまう人体になんども心の中で謝りながら、頭の片隅――メモリの一部を割きアポロンメディアの回線を介して斉藤さんが居る車のコンピュータに接続を試みる。
流石、随一のエンジニアが管理するだけあってセキュリティは固く、進入は容易ではない。
今使用しているメモリ程度ではセキュリティ突破のための演算など到底無理だと判断して、意識を回線の方に集中させた

のが、失策だった。

英数字と記号の羅列、還元すれば0と1の信号の渦を必死に掻き分けて泳ぐように進入し、ようやっと斉藤さんが操るシステムの深部へと手を伸ばした瞬間、視界は青い電子の世界から薄暗い現実世界へと転じた。
それと同時に走る衝撃。
視界下方を埋め尽くす赤と緑の光に、グッドラックモードで攻撃されたことを悟った。
鉄の体は後方に吹っ飛んで、受身をとることもできずに背中から床に強打した。

「おっしゃぁ!」

ワイルドタイガーの歓喜の声が響くと同時に、現実を伴わない衝撃を『私』は感じた。
そして視界は再び青い青い電子の世界に引き戻される。

――まずい、これはまずい。

H01と斉藤さんの手元のコンピュータの狭間、不安定な位置でフラフラしていたのが悪かったのだろう。
『私』というAIは、先のワイルドタイガーとバーナビーの攻撃によりH01から・・・端的に言えば締め出されてしまったのだ。
H01そのものに組み込まれていた自己防衛プログラムの作動により抑制装置――言わば理性とも言うべき『私』はH01から排除された。
セーフティも『私』もない今、自己防衛プログラムを阻むものはない。

――対物、対人問わず自分を守るために、このままだと何でも破壊するぞ。

余計なプログラム作りこんでくれやがって!
本来、主人や自身に危害を加える恐れのある"物体”を排除する――守るために必要なプログラムだってのはわかる。対人攻撃できないようにセーフティが作動すること前提なのもわかる。
だが、こんなタイミングで作動しなくてもいいでしょうに!バーナビーのパパとママのバカ!!
そして作動させたワイルドタイガーとバーナビーのバカ!!

先ほどの『私』と違い、容赦も手加減も無くなったH01相手にいくらNEXTといえども人間が長く持つ訳は無い。
ヤバイヤバイと焦る心をなんとか宥めて、電子の海を泳いで今度はH01への進入を開始した。

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