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H01にあらかじめインプットされている“モーション”――動きのパターン――は、実はそんなに種類は多くは無い。
それを状況に合わせて瞬時に組み合わせているにしか過ぎない。
組み合わせを演算するスピードが人間を遥かに凌駕したスピードであることと、発揮する力があまりに強いが故にヒーロー達と互角に戦えているだけであって、蓋をあけてしまえば全ての動きは全く同じ型をしているのだから、実は結構攻撃そのものは単純なのだ。
型にはまったテンプレ通りの動きしかしないのだから、そのパターンさえ分かってしまえば実は避けるのもそう難しい話ではない。
・・・あくまで、H01の攻撃を見切るだけの動体視力が備わっていることを前提とした話だが。
そこは修羅場を幾度も潜り抜けてきたヒーロー達の戦闘センスと、日々鍛錬をつんだ肉体を信じるしかない。
とにかく、私は彼らにかする程度の攻撃を何度も繰り出して、H01の頭部に詰め込まれた動きを全て見せ尽くしたのだった。
ホントはここで彼らを助けてしまいたかったが、ネットワークを介してロトワングから「ヒーロー達と少女をジャスティスタワーに連れてくるように」というオーダーが入ってしまったので、それは叶わなかった。
ここでロトワングの命令に逆らえば自分はスクラップ、後々のバーナビーとタイガーとの戦闘には加われなくなる。
困ったことだと軽くため息をついて、私との戦闘で疲労困憊、力尽きて倒れてしまったヒーロー達をジャスティスタワー深部、ロトワングのラボにある小部屋に放り込んで、少女――鏑木楓をできるだけ優しくロトワングの元へ運んだのはつい先ほどの話だ。
・・・暴れる楓ちゃんに、鏑木虎徹の声で「頼むから、じっとしていてくれ。傷付けたくないんだ。」と魔法の言葉を使ったのは、彼女と私の秘密だ。

あの時、私たる「人工知能」がダウンして短い夢を見た時から、私は“自由”を獲得していた。
主――つまり、この場合ロトワングであるわけだが――の命令(オーダー)に従わなければならないという枷は外れていて、私は体が羽根のように軽くなる心地だった。
・・・もちろん、H01のボディの素材は未だ鉄が主成分であるわけだが・・・。
もう一つ、私から外れた枷があった。
それはH01という「肉体」の枷。・・・正確には私が現在入り込んでいるこの個体とのリンクが希薄になったということ。
これで、私はH01のネットワークからただただ命令を受信し、情報を引き出すだけの“受信者”の立場を離れて、私自身がH01の管理ネットワークに侵入すること――更にはそこからもっと広域な通信ネットワークにも侵入できるようになった。
・・・どんどん、人間離れした技を身に着けている気がヒシヒシとするが、もう気にしないことにした。

「だって私は“海老”なんですもの。」

ロトワングによる調整が済んだ私のボディは、同じく黒いワイルドタイガーのスーツを纏った個体たちと共に、ラボのコンピュータにつながれていた。
創造主は捕らえたヒーロー達と鏑木楓を見張るのに別室にいるために、この少女の声を聞いた者はH01の量産個体以外居なかった。
その量産個体も今は電流が通わずに、沈黙を守っていた。

そう、私だけが「自由なH01」だ。
それが、他のH01達と私――こと偽者ワイルドタイガー「海老」との差だ。
あの短い夢で聞こえてきた声が全て教えてくれた。
私を自由にしてくれた。私が必要だと言ってくれた。
これからどうすべきかも、諭してくれた。
それで私は、酷く満足してしまったのだ。
開き直りと言ってもいい。
とにかく私は、自分が“海老”であることを受け入れて、“海老”であるが故に出来ることがあると思えるようになった・・・ただそれだけの事だ。

――みてろよ、ロトワングにマーベリック!

――敵はヒーローだけじゃないんだからね!!

ジャスティスタワーの上部にて、ワイルドタイガーとバーナビーと対峙する数時間前。
私はネットワークに意識を沈めるために、電子の海に身を任せた。

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