『大丈夫。』
私の視界が暗転して、深い泥濘に触れる直前だった。
やさしい、声が聞こえた。
『大丈夫。貴女は一人じゃない。』
『大丈夫。君は独りではない。』
どこか、遠くから聞こえる女の人と男の人の声。
『貴女だから、出来ることがある。』
『君だから、彼らを助けられる。』
暖かな腕が、私の心をすくい上げる。
『私達は、貴女を必要としている。』
『私達には、君が必要なんだ。』
瞬間、雷のような衝撃が走って、視界がホワイトアウトする。
『私達の分も、守ってあげて。』
『私達の分を、君に託す。』
真っ白などことも分からない場所から、シュテルンビルトに世界が反転した時、私には何をすべきか――何が出来るのか、全てわかっていた。
ココが夢ではないことも。
もう二度と、私が「私の日常」に帰ることができないということも。
prev next