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ホテルのロビーの天井高くまで放られた眼鏡は、一瞬で真っ赤な薔薇へと姿を変えた。
それは実に鮮やかな手並みで、間近で見ていた本職である幻影魔術団の団員でさえ、そのテクニックには空いた口がふさがらないようだった。

「貴女は、最初から私が犯人だと気付いていたようですね」

殺人者は名前へと視線を向けた。
気弱さを象徴していたタレ目がちの目は、最早白銀色のナイフと同じ鋭さを備えて淫靡に光る。
自信なさ気に下がっていた眉尻もつり上がり、それには自信とふてぶてしささえ感じられた。

北海道は死骨ヶ原でおきた連続殺人事件――後に魔術列車殺人事件と呼ばれるマジックショーのホストは、魔術団のマネージャー 高遠 遥一であった。
一度は高遠――もとい地獄の傀儡子の手によって命を落としかけた少年、金田一 一によって全ての殺人の真実が明らかになった今、地獄の傀儡子はその仮面を脱いで潔く幕を引いた。
気の小さいマネージャーという皮さえ脱ぎ去った彼は、恐ろしく狡猾な殺人者の顔をしていた。
その顔を金田一が見破ったのはつい先ほどのことだった。
不測の事態に高遠が咄嗟に翡翠の原石を使って脱出したことによって、ようやく金田一は犯人の正体に気付くことができた。
だが、高遠はそれより以前――彼自身が一つも自身に繋がる証拠を残す以前から、金田一の友人である@:が彼が犯人であることに気付いていたと言ったのだ。
高遠の値踏みするかのような視線と、驚きに目を見開いた全員の視線を浴びて、名前は困ったようにため息をついた。

「えぇ、まぁ・・・物的証拠はありませんでしたが、列車で団長さんの死体が消えた時から高遠さんが怪しいとは思ってましたよ」

無言の催促に観念したように、名前はそう軽く笑った。
その台詞に眉をしかめたのは明智警視だった。

「何故そう思ったんです?彼はあの時、まだ我々に何一つ手がかりを掴ませていなかったのに」

行きの列車で爆弾騒ぎがあった時から、名前は明智や金田一達とほとんどの時間を共有していた。
知りえた情報も金田一達と変わりはなかったはずだった。

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