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「魔女。」

今まさに剣が引き抜かれんとした時だった。
未だ幼さの抜けきらない少女の声と共に雪男に襲いかかろうとしていたソレに無数の風穴が開いたのは。

その一瞬後には燐達をかこんでいた異形たちは皆一声笑い声を上げて、凶弾の衝撃に吹き飛んだ。


「これは結界。魔女の結界。」

今まで居なかった存在が燐達を守るように、背を向けてそこに立っていた。
フリルをあしらったショートパンツとその短い髪と一房だけ尻尾のように伸びた髪は淡いパープル、メフィストが着ているものに似ている燕尾服とほっそりした足を包むロングブーツ、そして斜めに被るシルクハットは黒。
奇抜な格好はしているが、その背中は明らかに燐達よりも年下の少女のものだった。
その少女の左肩には、白い見たことも無い獣が乗っている。

「貴方は・・・一体。」

その姿を一番近くで見ていた雪男は無意識にそう呟いた。
が、それに答えたのは少女ではなかった。

先ほど彼らを取り囲んでいた異形よりも大きな子供の笑い声。
それは、この異質な世界――結界のクレヨンで塗りたくったような壁を、まるで画用紙でも破るかのように出でた更なる異形、額に入れられた女性の肖像画に手足が生えた化け物の声だった。
そのあまりのおぞましさに、しえみと共に身を寄せ合って肩を震わせていた出雲は「ひっ」と声を上げた。

「大丈夫、すぐ、終わるから。」

黒と紫をまとった少女はそういうとその場で自身の身の丈ほどもある弓矢をどこからともなく取り出して、かまえる。
つがえていなかったはずの矢は、弓を引く右手から淡い光が形を成して生み出された。

「あなたは・・・もしや・・・。」

燐に胸倉を掴まれたまま、唖然と今まで一言も発することは無かったメフィストは小さく呟いた。
それに答えることなく、少女は弓から手を離す。

放たれた矢は肖像画のど真ん中を射抜く、刹那、そこから光が迸り耐え切れなかった皆は目を強く閉じた。

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