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銃声と、剣と彫刻刀が触れ合う音が響く中、異形の者たちは甲高い子供のような声で笑う。

「おいおい、なんだよ、これ。」

悪魔の子――奥村燐は片手に剣をもちながら唖然とそうつぶやいた。
そのつぶやきはこの場にいる全員の心の内を代弁していた。
数多の実践経験をつんできた教員達ですら、このような事象にであったことはなかった。
だが、開いた天幕の奥の奇怪な世界から伸びてくる刃物は着実に彼らに近づいてくる。

「おい、メフィスト!こりゃいったい何なんだ!」

鋭い、妙齢の女の声。
刃物とそれを操る薄っぺらな異形を、悪魔のように撃ち、斬り、輪の中心に集めた候補生達を守りながら教師たちは上司を見た。

「これは・・・まさか、いや・・・だがそんなことがあるわけがない。」

かくて視線を集めたこの場の最高権力者は、顎鬚に手を当てるようにして己の思考に捕われていた。
何か知っているような口ぶりに訝しげに眉をひそめたが、妙齢の女――シュラは迫る彫刻刀を己の魔剣ではじき返すのに精一杯で更に深く問いただすことは適わない。

「メフィスト!何か知ってるなら何でも良いから教えろよ!!こいつらなんて悪魔なんだよっ。」

弟が放った弾が彫刻刀を持つ手に当たったのを一瞥して、燐はメフィストの襟を力任せに掴んだ。
考えに耽っていた長身は、たやすく折れて燐を真正面から見る体勢になる。

「これは、私が知る限り悪魔ではありません。」

虚無界を一番よく知る男の台詞に全員が一瞬動きを止めて、メフィストを見た。
同時に、彫刻刀もつ生き物は「キャハハ」と小さく笑った。

「じゃぁなんなんだよ」

燐は困惑に襟を掴む手に力を込めた。

「私の知る限り、このような異空間を展開させる悪魔などいません。
 ですが・・・"ありえない"事象が今起こったとするならば、私の知識においてたった一つ、コレを説明できるものがあります。」

誰もが、続きを促すように黙った。
そして迫る彫刻刀は、その隙を逃がさなかった。
燐は視界の端で蠢いたソレを見逃さなかった。

「コレは、結界です。悪魔ではなく――。」

「雪男!!」

メフィストの声は己の襟を掴む燐の鋭い声に遮られた。
鬼気迫る声に燐の視線の先に皆が目を向けると、そこには彼の弟に今まさに彫刻刀を振り下ろさんとする薄っぺらなナニカの姿。
獲物を狩る歓喜に飛び上がり、ひときは高く笑ったその姿に、誰もが間に合わないことを感じて戦慄する。

「ゆきおぉぉぉぉぉっ。」

悪魔の子は、反射的に剣を引き抜こうと鞘と柄に手をかけた――

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