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学校という、それも高校という思春期の少年少女ばかりが集まるコミュニティには“目立つ人間”と”そうでない人間”が存在する
いつでも誰かの話題に上る前者は、この学校では間違いなくJOJO――空条 承太郎だろう
“遠い過去”の経験で養われた嗅覚が、彼が“愚者”の少年達のように何かしらの運命において重要な位置を占める歯車だと気付いて以来、なるべく彼とは関わらぬよう息を潜めるように後者になろうと努力した
世界の命運だとか、そんなものに巻き込まれるのはもうこりごりだった

今日だってそうだ、その話題のJOJOがムショ帰りだか拘置所帰りだかをしたと騒いでいたクラスメイトの言葉を聞いて、これは何か起こりそうだと察知して仮病を使って保健室に避難した
そう、避難したはずなのに、それがこんな形で裏目に出るとは

(何が悲しくて人様のキスシーンを見なければならないんだ)

それも、ただのラブシーンなどではなく面倒事の延長だと見えてしまうのがまた厄介だ
空条の側に佇むそれと、保険医から飛び出した転校生――花京院のものと思わしきそれは明らかに人ではない
だが、召喚器もカードもなく召喚したところを見ると、名前の内に潜むものとも違うと見て取れた
その思考に、内に潜むものも頷いたということは、やはり目の前のそれは自身の操るものとはまた別の似て否なる存在なのだろう

保険室の大部分と、自身のいるベッドとをしきるカーテンを挟んで向こう側、非現実的なやりとりが行われていては逃げたくても逃げられず、そのまま見つからぬように息を潜めていたが、はて、これからどうしたものか


「引きずり出したことを、後悔することになるぞ・・・JOJO!」

「花京院、妙な動きをするんじゃぁねぇ!」

脱出に考えをめぐらせている場合ではなかった、花京院の側に佇むナニカが構え、明らかに何かしらのエネルギーを圧縮する様子に、鍛え抜かれた危機察知能力が警鐘を鳴らした

「あ、まずい」

隠れていることなど忘れて、思わず声をあげると同時にベッドから飛び降りてその下に隠れる
刹那、マシンガンでも連射したかのような音が衝撃と共に襲ってくる

「誰かいるのか!」

低い声は、空条のものだったのか花京院のものだったかはわからない
だが、これ以上身を隠すのは無理と悟って、穴だらけになったベッドの残骸から這い出る

「君は・・・」

「苗字!」

驚いたように声を上げる二人を一瞥して、カーテンレールから落ちた布切れを踏みつけて姿勢を正す
逃げろという空条の怒声のような台詞もついで聞こえたが、この状況で背を向けさせてくれるほど花京院は甘い相手だろうか
否と心の中で呟いて、スカートの裾からたどるように太ももへと手を這わす
捲くられる制服に、一瞬息を呑む音が聞こえたが男の性だ、仕方がない
それに、二人とも最早スカートから覗く太ももを見ている余裕はないだろう、彼らの目線はそこに付けられたホルスターと銃の形をしたものに向けられている

「君達の側に佇むものが何かはわからないが、私の命を脅かすというなら、相応の対応をしようじゃないか」

「スタンドが見えている・・・スタンド使いか!」

花京院の台詞に、彼らの側に見えるそれの名を知る
その間にも、手は慣れたようにホルスターからデリンジャーのような小型の銃器を抜き出して、銃口は一直線に脳髄を打ち抜ける角度で唇の上にそれられた

「スタンドというのか、君達のそれは・・・私にもそれは見えるが、生憎と私はスタンドとやらは使えない
 代わりに、“もう一人の私”がそのスタンドとやらのお相手をしよう」

「何してる、死ぬ気かっ」

自身を打ち抜くように構えられた銃に空条が叫ぶが、それ以上声を上げることはできなかった
殺される前に殺さなければこっちが殺される、そんな環境が育てた殺気を纏った眼光は、肉体的にも精神的にも今だ年若い高校生の二人をひるませた
その隙を見逃さず名前は躊躇なく引き金をひいた

「ペ ル ソ ナ !!」

瞬間、圧倒的な不可視のエネルギーと共に現れたのは、落ちた天使の姿を持つもう一人の名前だった

「ルシファー、マハラギダイン!!」

名前の命令に、それは忠実に従った

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