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「ふふふ、あっけないものだね。」

幼い少女の姿をした“ソレ”は地に伏せた名前をその小さな体では想像も出来ないくらいの力で蹴っているのだろう。
衝撃が逃げ切れずに、鈍く思い打撃音が響いた。


空の星の動きと月の光の力を借りて、ようやっと破壊できた柳洞寺の結界を越え境内に入れば、数日前よりも更に大きくなった『穴』が凛達を迎えた。
そのあまりの大きさと、大聖杯がもたらす影響によって可視できるほどに濃縮されてあたりを漂うマナに一瞬腰が引けたが、彼女を安心させるように微笑む父とアーチャーの姿に、彼女の不安はぬぐわれた。
もう、彼女は子供ではない。一人前といわずとも、遠坂の魔術師として、彼女はこの聖杯を破壊しなければならない、そう決意を思い出した。

境内にいたのは、名前が言っていた“人類最後の英雄”だけではなかった。
一人、幼い少女が『穴』のすぐ傍で、無邪気に微笑んでいた。
その愛らしい笑顔も、この状況下ではいっそ不気味で恐怖さえ感じさせた。
そして、その少女を見た瞬間、今まで飄々としていた名前が、声を荒げて叫んだのだ。

「やはり・・・やはりお前が関わっていたのか!!」

言うが早いか、常人には追いきれぬ速さで少女に迫り、名前は無手だったはずの両手にいつの間にか、剣と言うには小さく、ナイフというには大きすぎる刃を振り下ろしていた。
だが、それは“人類最後の英雄”の銃に当たり金属音を響かせただけだった。
それからの“人類最後の反英雄”と“人類最後の英雄”との攻防は、最早人間のレベルを超えていた。
アーチャー曰く「あれではサーヴァントとて迂闊に手を出せない」と言うほどのそれは、凛の目に捉えることは出来ず耳に刃と銃身とがぶつかる音と、銃声が響くだけだった。
名前が男をひきつけている間に、大聖杯に近づこうとしたが、それは幼い少女に阻まれた。
少女はただ一度、にんまりと邪悪に笑うと手を一振りし、近づく魔術師をサーヴァントもろとも吹き飛ばしたのだ。
その少女の笑顔に、凛は彼女が未だ遊んでいるに過ぎないことを悟った。

“人類最後の反英雄”と“人類最後の英雄”の戦いは、その少女の手の一振りで終わった。
少女が何か魔術を発動したのだろう、均衡を保っていた戦いの中で一気にスピードが上がった“英雄”の銃口は“反英雄”の心臓を確実に捕らえ、更に四肢とその脳天を5回も打ち抜いて、名前を地へと沈めた。
ことの始終を見ることができたアーチャーがそう説明した後、凛は信じられないものを目にすることになる。


名前が、動いたのだ。


その能力に常々チートだとは思っていたが、最早サーヴァントでさえもその存在が維持できないほどの傷を負っている彼女は、持っていた刃を“英雄”に投げつけた。
刃はかなりのスピードをもって“英雄”の腹を裂き、更に後ろにいた少女へと向かう。
だが、その切っ先は少女に傷をつけることなく、その細く柔らかな指で挟むようにとめられていた。

「やっぱり、悪魔は“悪魔殺し”の英雄に殺させるのが確実だね。」

鈴を転がすような幼い声と共に、少女は己を守って戦っていた“英雄”には見向きもせずに、名前に近寄ってその小さな足を振り上げた。

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