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3



死んだ、消えた――否、座に還ったのだと思っていた。
自身を構成していたエーテルの解ける間隔に目を閉じた次の瞬間、何故かアーチャーは聖杯光臨の現場に立っていたのだ。

そこからの展開は、速すぎてよく覚えていない。
見知らぬ誰からと、第5次聖杯戦争の参加者と、名前という女と、『穴』の前に立つ男。
サーヴァントであるアーチャーには、その男の体がエーテルで編まれていることに気付いたが、サーヴァントとはまた違った気配を纏っているとも感じた。
その男の言った「人類最後の反英雄」という言葉を信じるなら、いつかの未来で人類を滅亡においやった人物――名前の導きによって、男の銃撃をかわし、いなしながら、衛宮邸へとひとまず全員移動したのだった。

「何から話そうか」

誰もが疑いと戸惑いの目で名前を見ていることを知りながら、苦笑と共にあくまで軽い口調で彼女は信じられない言葉を紡いだ。


名前が未来に生きた魔術師であり最終的に反英雄として死んだこと、その業は人という種を滅ぼしたこと
自身の死の後、何度も何度もこの冬木の第4次・第5次聖杯戦争の参加者それぞれに成り代わって転生し、あらゆる悲劇的な結末を見届けたこと
今回の生では部外者として生まれついたので、今までその結末を捻じ曲げてやろうと思い、実際そうしたこと


「だから、君達の事情はよく知っている。個人的なものも含めてね。」
そう言いながら悪戯に笑った彼女は、人類を滅亡させた女には到底見えなかった。
そして言葉とともに全員をぐるりと見渡した彼女の視線から、見覚えのない人物やサーヴァント達は皆第4次聖杯戦争の参加者であることを知った。

「あの時いた、あの銃をもった男は――言うならば人類最後の英雄だ。
 “私”という悪魔を殺した、唯一人の英雄。
 私が殺しつくせずに残った、たった数百の人類にとっての希望の光。
 私の死の後に人類は再び繁殖し、繁栄したものとばかり思っていたが――結局絶滅していたとはね。」
遠い目をしながらそう笑った。
彼女のその雰囲気に誰も口を開くことが出来なかった中で唯一人、過去の己――衛宮士郎が口をひらいた。

「どうして、人間が根絶やしになるくらい、人間を殺そうとおもったんだ。」
誰もが意図して聞かなかったことを、年若いその純朴ともいえる少年は問いかけた。
その問いに名前は一つ驚いたように瞬きをして、そのあと悲しげに笑ってこういった。

「何千何万何億という人間の命より、大切なものが私にはあった。
 その大切なものを十とするなら、数多の他人の命なんて一にしか考えられないくらい、大切なものが。

 十のために一を切り捨てた、ただそれだけの事情だ。」

彼女の言葉が、アーチャーの胸には痛かった。

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