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“人類最後の反英雄”

ただでさえパンク寸前の士郎の頭に叩き込まれた言葉に、彼は――その場にいた誰もがただただ閉口するしかなかった。




第5次聖杯戦争の終幕のその刹那、大聖杯へと繋がる暗く光を知らない『穴』にセイバーの一撃が飛んで今まさにそれが破壊されようとした時、その存在は現れた。
聖杯戦争の前奏とも言える召喚の儀式の時のような魔力の風が吹き荒れ、視界は迸るマナの明滅に奪われる。
その一瞬の爆発のような衝撃の後に、一人の男が『穴』を守るように現れた。
そして、先ほどまで遠坂やセイバー、小聖杯としてあったイリヤ以外誰もいなかったはずのこの寺に、数多の人間とサーヴァントが現れたのだった。
その中には、死を見届けたはずの言峰やアーチャー――第5次聖杯戦争で敗退したと思われたサーヴァントやマスターの姿があった。
だが、士郎が一番信じられなかったのは、自身の養父であり既に亡き人であるはずの衛宮切嗣の姿があったことだ。

その場の誰もが、驚いていたことは、一瞬の後の遠坂の「お父様」という放心した言葉からうかがい知れた。
彼女の視線を辿れば、そこには赤いスーツを纏った男性の姿。
どこか彼女と同じ気品を備えたその雰囲気から、その男性が遠坂の死んだ父親であることを悟った。

「貴様は、運命さえも捻じ曲げるのか。」

誰もが驚きに言葉を失っている中で響いた声は『穴』を守るように現れた男のものだった。
重厚な鉄の銃を両手に構えた彼が見つめた先にいたのは、度々士郎の前に現れては消える女――名前だ。
魔術の研究として世界中を放浪していたという彼女は、この冬木の聖杯戦争に興味を持ったらしく、サーヴァント同士の戦いにちゃちゃをいれては去っていく、敵でも味方でもない存在だと認識していた。

「そもそも運命という言い方が間違っている。
 世界は数多に分岐して、死ぬはずの誰かが生きていて、生きるはずの誰かが死ぬ未来だって容易に存在しうる。
 だが、それでは後の未来に面倒なことがおこる、故に隠した。
 ただそれだけのことだ。」

答えた名前の声に、今この“ありえない”状況の犯人が彼女であるのだと知った。
彼女が“何かした”ことによって、死ぬはずだった切嗣は言峰はアーチャーは――ここにいる見たこともない誰かも、生きていて、そしてその存在は今まで士郎の目から隠されていたのだ。
その場にいた全員がその事実を悟って、名前を見つめた。

「この時代より未来に存在し、この聖杯戦争の・・・そして前回の聖杯戦争の結末を知る貴様が、こうして過去に存在して結末を変えてしまったこと。
 これを運命を捻じ曲げると言わず、何と言うのだ。」

男の銃口は名前に向けられた。
だが、彼女は慌てることも無く、目の前の男を見据えた。

「我々が知る結末とて、数多に分岐した選択の結末に過ぎない。
 他に存在しうる終焉というのも、見てみたいじゃないか。」

あくまで微笑んだまま、向けられた銃口に脅える様子もなく、軽口のようにそう名前は謳う。
だが、その様子は男の逆鱗に触れたらしく、次の瞬間彼はその細身からは想像もできないほどの怒声を響かせた。

「そうやってまた人の生死を弄ぶのか!
 人類滅亡の主犯者が!人類最後の反英霊が!

 貴様のせいで人間は全て死に絶えたというのに、それでもまだ飽き足りないというのか!!」

男が言い終えるが早いか、掲げていた銃の引き金を容赦なく引いた。
そこから打ち出された弾を軽く手を振り何らかの魔術でもって防いだ名前は小さく「そうか、滅んだのか。」――そう呟いたような気がしたが、後を追うような銃声にまぎれて、鮮明に聞き取ることはできなかった。

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