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ゆめをかなえて



――名前、名前、


呼ぶ、声が聞こえた。

目が開かないのか、もう目という存在が無いのか、世界は真っ暗だった。
耳に聞こえる音は何度も名前を呼ぶ聞き覚えの無い声と、耳につく潮騒の響きだけ。


 「お前は、誰だ。」


この死後の世界で、声をかけてくるのは何者だというのか。
ケフカの声を一番に聞きたいと言うのに。


 ――たすけて、たすけて


だが、誰とも知れぬ声は名前の問いかけには答えなかった。
ただ、耳を持たぬかのように一方的に告げるだけ。


「誰のものかもわからぬ願いなど聞き入れられん。」


強く、そう告げる。


――死んじゃうよ、死んじゃうよ


――皆、辛いだけなのに、皆、願っただけなのに


だが、声は名前のことなど構わずにそう続ける。


――死んじゃうよ、消えちゃうよ


――世界を救おうとしただけなのに、世界のために駆けただけなのに


名前の胸の奥に、鉛の針でも打ち込まれたかのような苦しさを覚える。


――世界に絶望しただけなのに、世界を変えようとしただけなのに


――彼が、彼女が、いなくなっちゃう、皆、いなくなっちゃう。


名前は、その声の嘆きを知っていた。

「世界」に、大切なものを奪われた者の悲しみ。
ついこの前味わったばかりの、苦しみ。


――助けて、助けて


――叶えて、叶えて、この願いを、この夢を


名前には、その言葉の続きが分かっていた。



――もし、

「もし」


――この願いが叶うなら、

「この願いが叶うなら」


――悲しい思いなんて

「悲しい思いなんて」


――「しないのに」


瞬間、@:の暗闇の視界が弾けた。



――願いは祈りへ


――祈りは夢へ


――夢は現実へ


潮騒に混じって聞こえる「誰か」の声が、「誰も」の声になった。



「どこまでも、貴方と共に。」

一つだけ、優しくも壊れてしまった彼の声が響いた。

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