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季節外れの転校生の世話を、奴良リクオに頼んだ担任教師の判断を、偏に良いとも悪いとも言うことは出来ない。

もちろん「良い人間」であることを心がけるリクオは、海外から来たという名前の日本人離れした容姿など気にすることなく友好な人間関係をすぐに築くことが出来たし、初めての土地と文化に戸惑う彼女の先手に回ってそれとなくフォローを入れたりと、さりげない気遣いも怠らなかった。
名前もリクオの心配りを悟って、彼に感謝と友愛の気持ちを抱いている。
二人が仲の良い友人になり、そこから清十字団の面々と友情を育むのにそう時間はかからなかった。

そう、ここまでは何も問題なかったのだ。


ある日の放課後、本屋への道を案内すべく共に日が沈んで暗くなった道を歩いていた名前とリクオを妖怪が襲ったのだ。
厳密に言えば『アレ』は妖怪の括りには入らないのかもしれないが――

彼らを襲ったのは人の形をとり、人語を解して、人の意識と記憶に介入する術を持つ見たことも無い存在だった。
ただ、それの本質が、自分の4分の1を占める闇と同じものであることだけを、リクオは漠然と感じ取っていた。

人の形をした『何か』はリクオ達の血を求めて牙を剥いた。
夜の姿になったリクオが刃で斬りつけたが、その傷に痛みなど感じないかのように『ソレ』は動き続けた。
後ろから付いてきていたつららと青田坊も氷と拳でもって攻撃を加えたが、『何か』はうめき声一つ上げることなく、あろうことか体につけられた傷を一瞬の内に治癒してみせた。
斬っても、凍らせても、殴っても倒れることの無い敵に、リクオ達には勝機はなかった。


だが、その状況を覆したのは一つの銃声と一つの弾丸だった。
リクオの横を抜けて『何か』の眉間に突き刺さった銃弾は傷口を焼いて『ソレ』に断末魔の一声を上げさせるとその身を灰にした。
サラサラと人の形をしていた灰が風に飛ばされる中、振り返ったリクオが見たのは後ろに庇って守っていた名前が、銀のリボルバーを持っていた姿だった。
彼女は一つ息を吐くと、リクオに「もう大丈夫」と笑いかけた。

そして彼女が語ったのは『何か』が海を渡った西洋に蔓延る魔物の一種『吸血鬼』であり、銀の武器と太陽の光でしか倒すことが出来ないこと。
吸血鬼達が何故かこの浮世絵町に集結しつつあり、奴良組を狙っていること。
彼女自身は吸血鬼を狩ることを専門とした祓い屋――『鬼狩り』であること。

あまりに突飛な話にリクオは当惑したが、彼らはこの浮世絵町を守るべく協定を結ぶこととなった。

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