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彼女との出会いの話をしたら、志摩君には「ラブロマンス映画のようだ」と言われた。
確かに、本来出会うはずの無い人との、幾重にも重なった偶然が私たちを引き合わせたのだとしたら、それはに「運命」を感じてしまうのも、仕方の無いことなのかもしれない。


親友である神木出雲に誘われて進学した正十字学園には、今まで自分が触れたことも無いような世界が広がっていた。
あらゆる学業施設が一塊になって、そこに通う学生のために生活に必要な施設や娯楽施設を積み木のように積み上げた「都市」。
その表の顔の、地下深くに根付く正十字騎士團と祓魔師達。
出雲ちゃんと出会うまで知ることもなかった「悪魔」を、彼女の口から聞くことしかなかったその存在を、ここで初めて実感した。
日常と非日常がこの町のように歪な形で一緒くたにされ、それでも危ういバランスを保ってその姿を保持していることを認識させられた。

昼間を学園で過ごし夕方からは塾に通いつめる生活は、必然的に「学園の生徒」の倍以上の勉学を求めた。
中学校の頃はそこまで必死にならなくても良かったが、有名校だけあってレベルの高い授業はただでさえ難しい。
ゼロからのスタートとなる祓魔に関してだけでなく、学校での授業の内容に関しても祓魔と同じくらいの時間をかけて勉強していなければならなかった。
そう思っていた学生は私だけでないらしく、“学校の勉強”をするべく通っている図書館にはいつも多くの人が居た。
中等部から大学の学生まで通うそこは、市営図書館など目ではない――それどころか国立図書館も真っ青な広さと蔵書を誇っている。
初めて来た時、地下にあるという正十字騎士團本部にある「祓魔師専用の図書館」と「資料庫」も含めればどれだけの本がこの町に存在するのだろうかと呆気にとられたのを今でも覚えている。

この図書館に通い始めて少したった頃だった。
勉強にも使われる広い閲覧室の一番奥に、日当たりのいい場所を発見した。
本棚と、他の机とを区切る仕切りに隠れるようにしていたその場所には、二人分の机が対面するように設置されていた。
日光を取り込む窓はとても大きく、そこからは立地の高低差から正十字学園町の市街地を見下ろすことができた。
ひっそりと誰にも見つからずに、この絶景と共に勉強の出来るこの場所を、私はとても気に入って、毎回この場所を使うようになった。


その場所に先人が居たのを知ったのは、その場所を見つけて数週間後だった。

本棚の隙間を縫って、いつものように暖かな日が差し込む机につこうとしたのだが、その反対側の、もう一つの机には見知らぬ女の人が居た。
自分と同じ制服を着ているが、顔立ちは私よりもずっと大人びていて、その人が先輩であることを物語っている。
まさか人が居るとは思ってなかったので、驚きのあまり先輩を見つめたまま固まってしまっていたら、彼女は手元にあった本から一瞬目を離して私を確認すると、再び紙面へと視線を降ろした。
ここのまま、踵を返して別の場所に行くのも何だか感じの悪い気がして、私はそのままいつもの指定席へと腰を下ろしたのだった。

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