職員会議が終わったのは17時半すぎだった。
その後、私の隣に座るお局先生(50代に差し掛かるが結婚も出来ず日々イライラが募っている勤務年数が長いだけで仕事は出来ない土竜組の担任、教科は数学)に呼び止められ明日生徒に配る手紙の訂正を押し付けられた。

男性教師と仲良くしている女性教師全員に当たりが強いこのお局先生は本当に厄介だ。
この先生の前ではあの4人と関わらない様にしていたのだが、先生と言うのは生徒たちの噂話や目撃情報が嫌でも耳にはいる。
ある時それらが耳に入ったのか、その日を皮切りに私への態度がきつくなったのだ。そんな事しているから男も寄り付かないと言うのに。



「まだ終わんねえの?」



座ってパソコンとにらめっこする私の頭上から声を落としたのはガムを噛む天元だった。
頭の飾りとピアスが蛍光灯の光を跳ね返し、チカチカと私の目を燻る。




『んー、もう終わるよ』
「どうせこいつに押し付けられたんだろ」




隣のデスクをノックする様に叩く天元。
そこは見事に私に仕事を押し付けたお局先生の席だった。




『大正解でーす、天元にはチューハイを1本奢ります』
「チューハイかよ」




デスクの上に置いてある4人からの誕生日プレゼントで貰った時計を見ると19時を過ぎていた。そして、気が付かなかったが職員室には私と天元しかおらず、職員室の扉や窓の向こうは真っ暗だった。その黒さが目に入り一瞬身体が震える。
学校特有のこの暗さには大人になって今でも慣れない。

明日の朝、プリントの訂正をお局先生に確認して貰い空き時間に印刷、そして放課後には配布出来るだろうとある程度予定を立てて帰宅準備をする。




「不死川から鍋炊けそうって連絡きてる」
『まじで、実弥鍋奉行だから待たせたらやばい』
「いや、今日は甘露寺もいるから到着するまでに食べ終わってる可能性もあるぞ」




顔を見合わせて慌てて職員室を出る。
職員室の戸締りをしっかりし、用務員室にいる鱗滝さんに鍵を渡して学校を出た。

学校から歩いて10分、全力疾走で5分の近さにある"マンション産屋敷"、鬼滅学園で務める教師のワンルーム寮だ。
そして私を入れて同僚5名は同じ階の横並びで住んでいる。
1番角部屋は私、その隣が冨岡、そして宇髄、煉獄、不死川の並びだ。ちなみに、宇髄と煉獄の間にはエレベーターがある。




『鞄置いて着替えてからいくー』
「おー、早くこいよー」




エレベーターを降りて宇髄はすぐに不死川の部屋に入ろうとしたが、私は肩苦しいフォーマルな洋服をいち早く脱ぎたかった。
変わらず駆け足で自分の部屋まで行き、鍵を開けて部屋に入る。
ベッドに乱雑に置かれていた部屋着に着替え、纏めていた髪の毛も下ろし皆で飲もうと買っておいた日本酒を片手にもう一度家の鍵をかけた。

不死川の部屋の扉を開けると暖かい空気と共に、空腹に効く出汁の匂いが私の頬を撫でる。
脱ぎ散らかされた靴でいっぱいになった玄関の奥からは不死川が冨岡に怒る声とそれを見て笑う宇髄の笑い声、煉獄「うまい」が響いていた。
彼らの靴を掻い潜り小さな隙間に自分の家から履いてきたスリッパを脱ぐ。瓶の日本酒を廊下に起き、帰る時に皆が履きやすい様に入口に並べていると後ろから大きな影がぬっと伸びてきた。




「お前、なんちゅー格好で来てんの」
『え?この部屋着変?』
「いや、足見せすぎだろ」




その大きな影の持ち主はさっきまで一緒にいた天元だった。ちなみに着用しているのは巷の女子に人気のルームウェア会社の物だ。
上のパーカーは淡いピンクと白のボーダーで、それと同じ柄のショートパンツ。素材はモコモコしていて肌触りがいい、お値段がそこそこ張るだけの事はある。
そんなお気に入りの部屋着を見て不服そうにする天元に頭を傾ける。




「あのなー、一応男ばっかなんだけど」
『そうだけど、あんたら私の事そんな目で見てないじゃんそれに蜜璃ちゃんもいるし』
「わかんねーよ?」




伸びてきた宇髄の手は露出された私の足を触れるか触れないかの焦れったい所をすっと撫でる。
思わず腰周りがゾクッと波立ち、小さく震えてしまった。太い彼の腕を掴むが抵抗も虚しくどんどん上へ上がってくる、仕舞いにはショートパンツの中に彼の指が侵入して来ようとしている。




『ちょっと、天元やめてっ』
「危機感のない名前が悪い」




天元は後ろから抱きしめる形で私を拘束し、ショートパンツの中を狙ってきている。そして私の首筋に頭を埋め匂いまで嗅ぎ出した。
酔ってしまったのだろうか、この短時間で。いや、ザルなコイツがそんな訳はない。
近頃女遊びが落ち着いてきたのは皆で話していたが、その欲求が爆発してしまったのだろうか。

こうなったら大声を出すしかないと胸に空気を吸い込んだ時、鈍い金属音が廊下に響き渡った。



「いっってええ!!」
「てめーら人ん家の廊下で盛ってんじゃねェ」




振り返ると完全に曲がったお玉を持った実弥が立っていた。お玉が曲がる程の力で殴られた天元は頭を手で包み廊下で蹲っている、その隙にすかさず実弥の後ろに隠れる。
そしてその時に私の格好をちらりと見た実弥は1つ大きなため息をついた。
あまりにも似合ってないのだろうか、2人にそんな態度を取られてはもうこの部屋着は1人の時にしか着れないなと考えていると、実弥が脱衣場からスウェットを持って来た。




「こっちに着替えろォ」
『あ、はい』
「それとこれからは出来るだけ袖と丈があるもん着てこい」




わかったなと念押しされるように睨みつけてくる実弥の顔が怖すぎて首が取れるんじゃないかと思う程縦に振った。


prev next
back


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -