07




「十二鬼月が出るかもしれない」



宇髄にそう言われて合同で行った任務だったが、結論から言うと鬼とは遭遇できなかった。

しかし、足を運んだ現場では沢山の聖職者が殺されていた。まるで誰かを探しているような殺し方、食事を主とした惨殺の仕方ではなく殆どの者が心臓をえぐられ即死だっただろう。
齧られたり食われたりした痕跡はなく、一瞬鬼ではなく人間の仕業かと2人で仮説も立ててみたが、近隣で十代の女性が相次いで行方不明になっている事もありやはり鬼の可能性が高いと感じた。

神社荒らしは点々と行われており、これで5箇所目だ。いつも柱や隊員が駆けつけるがそこに鬼はいない、狙いは鬼殺隊ではない。



「派手に殺りやえるかと思ったら地味に拍子抜けだ」
「…」



今回の任務は人里離れた村の神社だった。
人の足で行くには時間がかかる距離だったので、今回は往復で汽車を使った。
隣で駅弁を食べる宇髄は普段の隊服ではなく着流で、いつも纏められている派手な髪色はだらりと下ろされている。刀は風呂敷に巻かれ、一般人の様だ。
冨岡もいつも着ている半々羽織の中に刀を隠し、名前に持たされた包みを膝の上で開ける。


昼過ぎの汽車で駆けつけた2人は、現場の確認を素早く終わらし隠を要請した所で今日最終の汽車に間に合う事がわかった。
それこそ一般人では無理な速さで駅まで走り、駅近くの藤の家紋の家で変装をしてから汽車に飛び乗った。



「おっ、弁当持って来てたのか」
「…あぁ」
「隊員達が噂してた"嫁さん"の手作りだな」



冨岡を見下ろしながらニヤリと笑う宇髄。
和柄の包みを開くと竹皮が顔を出す、まだほんのり暖かいそれに触れると腹が声を上げた。



「派手に胃袋掴まれてんじゃねぇか」
「…まだ、嫁じゃない」
「はぁ?」



竹皮を開くと、昼食で食べた海老天ととり天が乗った小ぶりのおにぎりが2つずつ入っていた。
どちらから食べようか悩んでいると、横から着流に隠れた筋骨隆々の腕が伸びてきて1つの天むすを攫っていった。



「そりゃ、本気で嫁にする気か?」
「返せ」
「未来から来たとか言う風変わりな女、まあ派手な口実で俺は良いと思うぜ」



宇髄は手に取った天むすをじろじろと見つめ、一口でそれを頬張った。
冨岡も騒つく気持ちを抑えながらこれ以上取られまいと順番関係なく口にいれた。昼間の天ぷらはさくさくで香ばしさが強かったが、こちらの方は程よく油も周りホロホロと柔らかく口の中で解けていった。

騒ついた心も何か腹に入れればすぐ落ち着くと言う事は、その"未来から来た女"から教わったのだ。

移動中でも一口で食べやすいように小ぶりにされている所も彼女らしさが出ている。
早速次を口の中に放り込もうとした時、上からの視線に気づく。



「こりゃ驚いた、本当にお前んとこの嫁が作ったのか」
「…まだ嫁では」
「名古屋で食べたのよりうまいな」



もう一つ取ろうと宇髄の手が伸びたが、冨岡の手が壁になり取らせまいと阻止する。
一向に取らせる気配のない冨岡をみて諦めた宇髄は再び自分の持っている駅弁をかきこんだ。



「まあ、あんまり本気になるなよ」
「…」
「本当か嘘か証拠もねぇんだろ」



名前の事はあの事件の次の日に緊急で行った柱合会議で胡蝶と冨岡が報告したので、柱達全員は内状を知っている。
他の隊員達には知らせていないが、万が一何かあればすぐ動ける様に柱には報告しとくべきだとなったからだ。なので現在冨岡と同棲している事や彼女の病状の経過等、柱達は知っているのだ。
宇髄を含めた他の柱も数名名前を怪しがっている者もいるが、特殊な稀血から鬼に効く薬が出来るかもしれないと胡蝶が言い出し研究も兼ねて保護する許可がおりた。
本人にも研究については了承も得たのだが、トラウマの事があり中々外出が出来ず蝶屋敷へ行く頻度も多いとは言えない。怪しがられるのは当然だろうと冨岡も思うが、日頃の彼女は献身的で怪しさなんてこれっぽっちも見られないのだ。



「実家が割烹だって言ってたな」
「小さい頃から手伝わされていたらしい」
「んじゃあ、今から冨岡ん家で決まりだな」



汽車が駅に大きく体を揺らしながら到着した。
宇髄が食べていた駅弁はすでに小さく纏められている、冨岡は言っているわけもわからず食べ終わったゴミを片付けられずにいた。
宇髄はもう一度ニヤリと笑った。



「嫁が3人いる俺が査定してやろう」



気づけば冨岡達が降りる駅で、宇髄はさっさと降りる準備をしている。
慌てて自分も降りる準備をし宇髄の後に続く、駅から冨岡の自宅まで30分程歩いてかかる。



「今から来られても迷惑だ」
「長居はしねぇよ、新婚だしな」



どうも行かないと言う選択肢は宇髄にないらしい。
スタスタと駅を出て歩き始める宇髄、その後を追いかける冨岡は懐で眠っていた鎹鴉を起こし名前への伝達を頼む。
ヨボヨボと飛び出した鎹鴉を見送ると宇髄の声が夜闇に響き渡った。



「家から酒取ってくるからやっぱ直接行くわ」



早く帰ると言う選択肢も宇髄には最初から無いようだ。





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