12




久しぶりに夢を見た。
それは姉さんを亡くした時、錆兎を亡くした時に見た夢と同じだった。



暗闇の中で蔦子姉さんと錆兎がじっとこちらを睨むようにこちらを見つめ、自分の周りには業火の炎なのか辺り一面火の海で2人の元へは行けない。

熱い、熱い、熱い。灰や熱風を吸い込み喉が焼ける様に熱く思わずむせる。
蔦子姉さん、俺のせいでごめん。錆兎、守られる位弱くてごめん。
炎の向こうで2人が何かを言っている、炎が燃える音で何を言っているかわからない。

ああ、自分もそちらへ行けたらどんなに楽だろう。2人とは同じ場所へは行けないかもしれない、こんな弱い俺の為に犠牲になった2人とは同じ所で落ち合う事なんか到底無理だろう。
それでもこの世で1人でいるよりどんなにいいか、いっそこの炎を乗り越えてしまおうか。


そんなくだらない考えが頭を過った時、一番近くにあった火柱が小さくなった。
これは神様からのお達しか、そちらへ行く許しが出たのか。
一歩炎の方へ足を踏み出し、2人に駆け寄ろうとした時ふと彼女の声が聞こえた。



「冨岡さん、おいしいですか?」



気づけばいつも2人で食事を取っている居間にいる。
目の前の御膳には食べ慣れた名前の料理がずらりと並び、それは自分がおいしいと言ったものばかりだ。


ああ、自分はいつからこんなに未練がましくなってしまったのだろう。
いつでも死んでいいと思ってた、一日でも早く2人がいる所へ行けるのならそれで良いと。
だがしかし、彼女と出会って約束が増えた、楽しみにする物が増えた、守らなければならない物も増えた。

今2人の所へ行っても未練しか残らないだろう、彼女をこの世界に1人にするのだから。
それにそんな事したら2人から罵倒されるかもしれない、好きな女1人守れないでどうすると。






目を開けるといつもの天井があった。
窓の障子からは朝日が溢れ、寝室をきらきらと照らしている。
昨夜より随分楽になった体を起き上がらせると、そこには夢にも出てきた彼女がいた。

自分が寝ていた横で布団も被らず寝ている名前は、ずっと手を握ってくれていたのだろうか寝入っていても尚手を握り続けている。
そんな彼女の寝息が普段より荒く、どこか顔が赤らんでいるのに気がつく。握られている手とは逆の手で首筋を触ると明らかに熱く発熱してるのがわかった。



「んんっ」
「名前、起きろ」
「冨岡さん…」



彼女の肩を軽く揺ると、眠たそうに瞳を開けた。首筋を触った事で少し着崩れているそれに冨岡の心臓が速くなる。



「よかった…、元気そうになってて」
「名前が風邪をひいただろう」
「そういえばちょっと頭と喉が痛い」



だるそうに起き上がる名前を昨日とは逆に冨岡が支える。昨日借りたちゃんちゃんこを急いで名前に返し、毛布をその上から巻くと子どもの様に名前が笑い出した。



「ふふっ、これじゃぁ動けないですよ」
「大丈夫か?」
「ちょっと熱っぽいですけど、大丈夫です」



彼女の呆気からんとした様子を見た冨岡は女性の方が病気や怪我の痛みに強いと言う話をふと思い出した。
久しぶりの高熱であんな夢まで見た冨岡には理解し難い彼女の行動。
「着替えてきます」と何事もない様に自室へ着替えに行ってしまったのだ。
自分もいつまでも床に伏している訳にはいかず、未だだるさが残る体を気合いで動かした。







「うう〜、頭痛い…」



一方、自室へ戻った名前は風邪からくる頭痛に悩まされていた。
冨岡に心配させてはならないと見栄を張った事を人生での後悔ランキングに入る程後悔している。
それに三十八度以上は発熱しているのか、信じられない程の節々の痛みが名前を襲う。
現代で生活してた時はこの時点で床に伏してた名前だが、居候の身でそんな事申し出れる程肝は座っていない。
名前は生真面目な自分の性格をこの時ばかりは恨んだ。




「とりあえず、冨岡さんに気付かれない様に手を抜こう…」




私の居場所である炊事場へ向かうと隙間風が体に当たり、悪寒が身体を駆け抜けた。
咳が少し出てきて体調は良くなる気配はない、湯浴み後きちんと髪の毛を拭いておけば良かった、いや、何か羽織って眠っていればこんな事にはならなかっただろう。

冨岡さんには悪いが今朝もたまご粥に献立を決めて準備を始める。
昨夜と同じ物は可哀想なので彼の分だけ雑炊風にアレンジを加えようと考えていると、ふと目の前が揺れ始めた。

気づけば食器が落ちて割れる音、お鍋がぶつかり合う音が水の中で聞こえる様に響いて聞こえる。炊事場の床は冷たく、発熱している身体にはとても気持ちがよかった。




太陽の匂いがする隊服に身を包んだ時、炊事場で大きな物音が聞こえた。
名前に何かあったのかと慌ててそちらへ向かうと、炊事場の殺風景な床に名前が横たわり周りには数枚割れた皿、ぐらぐらと揺れる鍋が散乱している。
駆け寄ると朝触れた時よりも明らかに熱く、ぐったりしている。



「名前!」



問いかけても呼吸は荒く反応はない。
首筋や顔も赤く汗が滲んでいる、そんな彼女を抱き上げ蝶屋敷へ足を走らす。


結局自分は何一つ守れないで、守られてばかりだ。





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