※グロテスク



私は神様仏様等信じていない、そうじゃな無ければこの世の中は不平等すぎる。
貧しさからこの寺院に逃げて来たが、ここにも神様仏様はいなかった。
ここでは籠の中の鳥だ、それも"観賞用"ではなく"食用"の。



童磨様が怒っている、物凄く。
私以外気がつかないのだ、彼が怒っている事を。たぶん、彼自身も気づいていないだろう自分自身が怒っている事に。

私は新興宗教『万世極楽教』の教祖様である童磨様のお付きをしている。
また信者が数名居なくなった。ただでさえ人手が足らないのに次々といなくなる、それに加えて今日は月に一度の童磨様の説法があり早朝からてんやわんやだった。



「すみません、そこのお嬢さん」
「はっ、はい!?」



パタパタと説法に必要な物や、今日の来客名簿等を運んだり用意したりしていると後ろから男性に声をかけられた。
その彼は着物に詰襟のシャツ、下は袴を着ており寺院から1番近くの街からやってきた書生なのだと悟った。

被っていた学生帽を取り、私に頭を下げる。
目があった彼はニコリと私に優しく微笑み近づいて来た。



「君はここの信者さんかな」
「そうでこざいます、もう少しで説法が始まりますので奥のお部屋でお待ち下さい」
「実は僕、こういう物なんだが…」



懐から小さな厚手の紙を取り出した、彼の名前らしき物が書いてあるが貧しい家に育った私は読み書きが出来ない。

その紙から目を離し彼をもう一度見つめると、その事に気がついたのかまたも優しく微笑み名前を言いそのまま話を続けた。



「今、高等学校の課題で新興について研究をしているんだ」
「はぁ…」
「ここの詳しい式たりや教祖様について詳しく教えてくれないかい?」



こんな年齢が近い男性と喋ったのはいつぶりだろう、彼の身振り手振りは育ちの良さが出ているのかあまりに優雅に動くものだからそれに釘付けになってしまった。
彼にある程度この宗教に関する説明を行い、説法が始まる部屋へ案内した。部屋に入る時に耳元で「ありがとう、助かったよ」と囁かれ耳が赤くなる。

赤くなった耳を押さえながら、ちらりと彼を盗み見る。私もあんな貧しい家に生まれていなかったら、あの彼の様に学校へ足を運べていたのだろうか。
熱い視線で彼を見つめているといつの間にか説法が始まる時間になり、壇上の襖が開く。


そこには童磨様が座椅子に座っていつもの扇を口元に当てて笑っている。
ちらりとその虹色に輝く瞳が私を捉えた、その眼の冷たさに息が止まる。



「お待たせしてしまって申し訳ない、今から説法をはじめよう」



声色、表情、態度、何一ついつもと変わらない童磨様に説法を聞きに来た人々は歓声を上げる。

私は恐怖からか手が震え、息が上手く吸えず思わず座り込んでしまった。
何故怒っていらっしゃるの、何か私がしただろうか、説法の準備に不備があったのか。
他の皆は気づいていない、多分今夜いなくなるのは私だ。



説法が終わり来客を見送っていると、その中にさっきの彼もおり小さく手を振りながら私に近づいて来た。



「色々教えてくれてありがとう」
「いえ、お役に立てましたでしょうか」
「あぁ、またここへ来たら君に会えるかな?」



夕焼けに染まって彼の頬も赤かった。
また会いに来てくれるのか、それが学業の一環であっても何もない私に会いに来てくれることは嬉しい事だ。
しかし、次に彼が来た時に私がここにいるかは分からない。たぶん、今日が最初で最後になるだろう。

そんな私の表情を見て何かを感じ取ったのか、彼がカバンの中から文庫本を取り出しそれに挟んでいたしおりを私に手渡した。



「これを君に貸しておくよ」
「しかし、私は字が読めません」
「持っておいて、必ず取りにくるから」



そう言って藤の花が書かれたしおりを私に押し付け寺院を去って行ったのだ。
そのしおりからほのかに香る藤の匂いが私を安心させる。また会いたいな、と願わぬ願いを心で唱えた。

そのしおりを装束の懐に入れ、ある部屋の前を通ろうとした時、人のとは考えられない程の力でその部屋に引きずり込まれた。
そのせいで引っ張られた腕が抜けたのがわかる、あまりの激痛に甲高い悲鳴が出た。



「あぁ、ごめんごめん。力加減を間違ったね」
「痛いぃっ…ぁぁ、童磨様…」
「名前、これは何?」



あまりの痛さに気が飛びそうだ。
肩が抜けただけではなく、多分握られているそこは骨も折れているのだろう。
痛みで引きつる顔の前に、いつの間にか取られたのか藤のしおりをぴらぴらと揺らされている。



「俺、藤の花が大嫌いなんだよねぇ」
「ご、ごめんなさい…、ゆるしてください…」
「どうして謝るの、怒ってないよ」



童磨様は相変わらず和かに微笑んでいる。
しかし、きらきらした虹色の瞳には明らかに怒りが宿っておりへたれこんでいる私を見下している。

腕の痛さと恐怖から自然と涙が溢れ出た。
恐怖から腰が抜け逃げようにも逃げられない。



「泣かせるつもりはなかったんだけどなぁ」
「うぁっ、ひっく、ごめん、なさい…」
「だからどうして謝るんだい」



握っている腕の力を強められ、さっきよりも大きな私の悲鳴が部屋をいっぱいにした。
何故だか童磨様はそんな私の姿を嬉しそうに見つめて、腕を離した。そこは赤黒く鬱血しており、腫れ上がっていた。

痛みで力が入らない、意識も朦朧としている。



「殺す気はないんだ、ただ名前があの男と喋っているのを見ちゃってね」
「はぁ、はぁっ…」
「凄く不快な気持ちになったんだよ」



さっきとは打って変わって優しい手つきで私の顔を持ち上げる童磨様。
頬にある爪が皮膚を突き破りそうで怖い、感触を楽しむ様に頬を堂磨様の手が往復する。
その片手間の様に、もう一方の手で持っていたしおりを握り潰すと砂の様に童磨様の指の隙間からさらさらと散っていった。



「残念だったねぇ、大切に懐にしまってたのに」



頬を撫でていた手はいつの間にか私の髪の毛を弄っており、そのうちの一束を持ち上げ唇をそこに落とした。

装束の中に童磨様の手が入り、大きく開けられる。抵抗する気なんて起きやしない、それよりも痛みで体を動かせないのだ。
日に焼けていない鎖骨から首筋を童磨様の長い舌がなぞる、そしてそこに噛み付いた。



「う゛ぁ、いだ、いだいぃ…」
「いい声だねぇ、さあ、もっと喘いて名前」
「あ゛ぁああ、あ、あぁ」



名前を抱きしめ痛みを与え続ける童磨は考えていた。何故こんな事をしているのか、あの男へ対する不快感はなんなのか、痛みのあまり自分にしがみつく名前が可愛くて、痛がる名前を見るのが可哀想だがやめられない、いっそ殺して自分に取り込んでしまいたいがあの屈託のない笑顔が見れなくなるのは悔やまれる。一体これは何なのだろう。
自分の中で何かが変化しているのだ、彼女を手放したくない。いっそあの方に頼んでこの子も鬼にしてしまおうか。そうすると名前は一生童磨を恨んむだろう、あの笑顔を向けてはくれなくなる。

ちなみに名前にちょっかいを出していたあの男は、寺院を出たすぐに殺した。
骨も肉もわからない暗いぐちゃぐちゃにしてやった、それを知ったら名前は余計笑ってくれなくなるのだろうか。

2人しかいないこの部屋に名前の痛さで歪んだ声が響き渡る、彼女の血を舐めあげると余計興奮し止まらなくなる。




やはりこの世には神様仏様などいないのだ。

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