※kmt学園



日中の校舎は沢山の生徒が出入りし、喋り声、ペンの音、廊下を走る音、先生のヒールの音色んな音が鳴り賑わっている。

それは夜になるとあたり一面静まり返り、不気味さが顔を出す。

名前はそんな校舎をじっと見つめ鞄をもう一度持ち直した。
明日に必ず提出しなければならない書類が入っているファイルを自分の机に忘れたのだ。
その書類には保護者のサインか印鑑が必要で今日押して貰わなければならない。



「怖いけど、行くしかないよね」



自分に言い聞かせる様に口に出し、朝は生活指導担当である冨岡先生が立っている校門に触れる。
校舎に灯りはついていないが校門が開いた、まだ中に誰かいるのだろうか。
もしかしたら先生が数名残っているかもしれない。そうなら、理由を話して途中まで付いてきて貰おう。そんな甘い期待を抱いて靴箱に自分の靴を入れ、上履きに履き替える。



「失礼しま〜す…」



職員室を覗くが中は真っ暗で人の気配は全くしない。名前の淡い期待は儚く散った。
しかし、校門と職員室の鍵が開いていたという事は誰かは中にいるはずだ。
しかし、鬼滅学園は中高一貫の私立学校、校舎も広く他クラスの友人とは授業が違えば帰りまで顔を合わさない時もある。

自分のクラスの鍵を取り、電気がついてない廊下を早足で進む。
階段には各踊り場に電気のスイッチがあり全部つけながら登ってきたが、クラスへ続く長い廊下のスイッチが見つけられず恐怖心を大きくさせながら足早に進む。


無事に自分のクラスに着き、鍵を開けて中へ入る。運悪く今の席は出入り口から1番遠い場所にある、壁に手をつき電気のスイッチを探す。
パチっと音が鳴り教室が明るく照らされた、それだけでも名前はほっと安心する。



「あれ、おかしいな」



自分の机の中を探るがファイルがどこにもないのだ。
個人ロッカーの方も確認しようと屈んでいた腰を上げた時、冷たい物が名前の足首に触れた。

それは舌が長く鬼の様な角が2本生えた化物、立てないのだろうか這って名前に近づいてきた様だった。



『久しぶりに人肉にありつける、お前の脳髄を耳から啜ってやるぞォ』



自分でもこんなに大声が出たのかと驚くほどの悲鳴が発せられた。
足を暴れさせその化け物の手を払うと、そのまままバランスを崩し地面に尻餅をつく。
化け物は舌舐めずりをしながらこちらへ近づいてくるが、腰が抜けてそこから動けない。

恐怖から目を閉じたその時、教室の扉が開く音がした。



「いやぁぁぁぁ!!なにコイツ!!!気持ち悪ぅぅう!!!!」



そこには同じクラスの我妻君が立っていた。
手には刀の様な物が抱きしめられており、服装もお昼間着ていた制服のままだった。



「てかあれ、名前ちゃん?こんな時間になにしてるの?」
「あ、プリント忘れちゃって…」
「夜に女の子1人でくると危ないよ〜、てか私服もすっごく可愛いね!」



ずかずかと教室へ入ってきて、私の手を掴み引き上げる。不思議にも抜けていた腰に力が入り立ち上がる事が出来た。



『なんだぁ、てめぇは〜俺の事無視すんじゃねぇよ』
「いや、それよりお前名前ちゃんのスカートの中見てたよね!!?」
『はぁ??』
「あの角度なら見えるだろ!!!?見た目も気持ち悪い上に、覗きが趣味なんてもっと気持ち悪いわ!!!なんなら俺も見たかったけど!!」


最後のは聞かなかった事にしよう。

スカートの中にはパンツが見えない様にもう一枚履いているので大丈夫だろうが、どうして我妻君はこの化物と普通に話せるのだろうか。

私の前に立つ我妻君はいつもより逞しく、大きく見えた。

だがそう見えたのは一瞬で、我妻君に怒った鬼が周りの机をあの気持ち悪い舌で真っ二つにしたのだ。
机までスパンと切れてしまうのだから、あれを真面にくらうと私達もが真っ二つだ。

その攻撃をみて呆気に取られていた瞬間、凄い力で私の手を我妻君が引っ張り教室を飛び出る。


「ムリムリムリムリ!!あんなん受けたら死ぬ!!!!!」
「我妻君!!あいつ追っかけてきてる!!」
「わかってるわかってる!!けど一回逃げよう!!!こっちに確か冨岡先生がっ…」



廊下の終わりまで来てしまった。

真っ直ぐの廊下を左へ行けば先程登ってきた階段があり、下へも逃れたのだが私達は右へ走ってきてしまいそこには壁しかない。
前からは先程の化物が涎と舌を出し、私達を追い詰める。

我妻君を見ると信じられないほど怯えており、私よりも震え上がっている。冷や汗も尋常じゃない量をかいて顔も青白い。
そして、そのまま後ろにいた私の方へ倒れてしまった。受け止めた私もそのまま地面へ座り込んだ。



「我妻君!!?」
『口だけだったようだなァ、2人とも美味しく食べてやるから』



化物はニヤリと笑い、舌を鞭のように私たちの方へしならせた。凄いスピードでこちらに向かってくる舌。
頼みの綱の我妻君は泡を拭いて倒れている、自分の太ももにある我妻君の頭を抱きしめ痛みを覚悟して目を瞑ると鬼の悲鳴と落雷の様な音が聞こえた。

目を開けるとそこにはいつの間にか立ち上がって刀を構える我妻君の背中と、鬼の舌先が転がっていた。



『うぐぁああっ!!そいつ、起きてやがったのかァ!!』
「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃」



またもや大きな音が鳴り、我妻君が目にも止まらぬ速さで化物の首を切り落とした。
化物は灰のように黒く焦げ空気に舞って消えていった。



「フガっ!」
「我妻君、大丈夫!!?」
「えっ…、名前ちゃんが倒してくれたの…」



さっきまでの我妻君の姿は見間違いなのだろうか。

あんなかっこいい技を出して鬼を倒したのは違う人だったのだろうか、今目の前にいるのは涙目で震えるか弱い男の子。



「名前ちゃぁぁん!ありがとう!君は俺の命の恩人だぁぁぁ!!!」
「いや、違うよ、我妻君が…」
「一生君についていくよ、俺と付き合って下さい!!!」



私の方へ走って近づいてきて、交際を求めてくる我妻君。手を握られて中々離してくれない、目の前では我妻君がわんわん泣いている。

普段から想像出来ない姿は鮮烈で、吊り橋効果もあるのだろうずっと鼓動が速い。
緊張で手も冷えていたが、彼の体温が移りどんどん自分の体温も上昇しているのがわかる。


いつの間にか彼の後ろには冨岡先生が立っていて、いつもの様に我妻君の頭に一発をいれた。


平手の衝撃で彼は私の手を離し、先生に抗議していたが私は手に残った温もりを抱き鼓動を沈めるのに必死だった。

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