任務に出て5日、やっとの思いで4人目の嫁が待つ自宅に帰ってきた。他3人の嫁は並行で行っているもう一つの任務に潜入していて不在。
明日、明後日には帰ってくるが、4人目の嫁とゆったり過ごそうと急ぎ足で帰って来たのにも関わらず。


その4人目の嫁は背中に赤ん坊を背負っていた。



「…誰の子だ?」
「天元様!おかえりなさい!」



中庭で洗濯物を干していた名前は天元の姿に気づくと笑顔で近寄ってくる。
天元は背にいる赤子をじっと見つめ5日前の事を思い出した。


4人目の嫁名前は忍びではない。
旦那が借金を残して愛人と高飛びし、その借金取りに女郎屋へ連れて行かれそうな所を天元が助け嫁として匿っているのだ。
女郎屋へ売られてもやっていける位の美貌を持ち、尚且つ料理、掃除、気立てまで良いそんな名前を天元は心底気に入っていた。

確か5日前は普段通りだった。何度か名前の事を抱いたが子が出来た様子や素振りはなかった。それに妊娠に気付いていなくとも、この5日間のうちに子が生まれたのであれば、すぐに鎹烏が伝令で飛んで来るだろう。

頭を抱えて考え込む天元を見た名前は、ぷっと吹き出し腹を抱えて笑い出した。



「天元様、この子誰かわかりませんか?」



ケタケタと笑うその姿をとても愛しく思うが、自分を揶揄う態度に少し腹が立つ。
気持ちよさそうに眠っている赤子をじっと見つめると、何処かでみた額の痣、耳には花札の様な耳飾りをつけている。



「こいつ、竈門炭治郎か!?」
「正解でーす、可愛いでしょう?」



我が子を自慢する様に背中にいる竈門を見せる名前。
とりあえず、自分の子でない事に安心なのか、残念なのかわからない気持ちが込み上げてきた。



「派手に驚いたぜ、そんでどうして名前がこいつ背負ってんだ」



柱合会議後の任務で、子ども好きの鬼とやり合い、その血鬼術で赤子になってしまった竈門を現場に駆けつけた隠の奴らが見つけ、慌てて竈門を蝶屋敷に運んだ。
胡蝶が解毒剤を調合している間、継子が面倒見てたらしいが一向に泣き止まずそこに通りかかった名前が竈門を抱くとピタりと泣き止みここしばらく世話をしていたとの事。



元々子ども好きの名前は、その日も慣れた手つきで竈門の世話をしていた。
旦那である天元の食事、竈門の離乳食を用意し食べさせ頃合いを見て昼寝をさす。
初めは子どもが出来たらこうなんだろうなと思いを馳せていたが、時が経つと段々任務から帰ってきた自分へ労りの言葉もかけてくれない名前にまたもや腹が立ってきた。

元はと言えばこの竈門がうちに転がり込んできたのが元凶だ。殺意を向けられているのにすやすやと名前が用意した布団で寝ているこいつの鼻を摘む。
息が出来ず泣き出す竈門を見て満足していると、炊事場にいた名前が泣き声を聞きつけ慌てて駆けつけた。



「なにしてるんですか!!可哀想な事しないで下さい!」
「地味すぎんだよ、こいつ」
「せっかく寝てたのに、ごめんね」



布団の上で泣いている竈門を抱き上げ、左右に揺する。しばらくすると泣き声は止み寝息が聞こえてきた。
毛布に包まれたそれに信じられないくらい優しい笑みを与える彼女。
その姿がしばらく天元の頭から離れなかった。


日が傾き辺りを真っ赤に染める頃、胡蝶が我が家を訪ねて来た。
解毒剤の調合が終わり竈門を引き取りに来たのだ、名前から離された時少し泣いたが胡蝶がすかさず注射を打つと泣き止みまた眠りについた。



「数時間後には普段の姿に戻ります、名前さんのおかげで作業が捗りました」
「しのぶさんのお役に立てて良かったです」



胡蝶とその継子は竈門を引き取るとそそくさと蝶屋敷へ帰って行った。



大人2人になるとたちまち静まりかえる、さっきまで炭治郎君が寝ていた布団を畳むとほんのり赤子の温もりを感じ、そこに手を当てた。

あの日、天元様に助けて貰いここにいるわけだが、あの男とは別に出会った人と結婚していたのなら子どもを授かって平凡な日々を過ごしていたのだろうか。

それに天元も任務に行ったら本当に帰ってくるかわからない。
いつどこで死んでしまうかわからない、死体も帰ってくるかわからない。

そんな人を好きになってしまった。

それに私以外に嫁が3人いるのだ、子どもなんか恵まれないだろう。その3人も気立てがよく見た目も美しい、床も共にしている様だし。

黒いモヤが心を過るが、そんな事ウジウジ考えても仕方がない。
夕飯の準備をしようと畳んだ布団と重い腰を持ち上げたその時、後ろから帯を引っ張られ思わず倒れ込んでしまった。



「いたたっ、なんですか天元様?」



倒れ込んだ先は天元の腕の中。
そのまま優しく床に下ろされ、顔の横には天元の立派な腕に目の前には整った天元の顔。
髪の毛は解かれておりキラキラ光るその髪の毛が私の頬を撫でた。



「そんな顔すんなら、子でも作るか」
「へっ?」
「明日、明後日まで2人だしな」



どうやら3人はまだ帰らないらしい。
帯を引っ張られた事で胸元が着崩れてしまった、そこに口元を寄せる天元。
啄む様に首筋、鎖骨、胸元に唇を落とし、手は優しく握られている。



「…ぁっ、天元様」
「それに竈門に構ってた分、今から派手に鳴いてもらおうじゃねぇの」



天元様はもう一度私の顔まで近づき、ニヤッと笑う。無駄に色男なのが腹が立つ、それに翻弄される自分自身にも。
気づけば帯も着物も無くなっており、事はどんどん進んでいた。


2日後、帰ってきた嫁達はげっそりと青白い顔をした名前とやたら機嫌がよく鼻歌まで歌う天元を見て首を片方に傾げるのだった。



そして数ヶ月後にはいつしかの礼を言いにきた竈門炭治郎が、中庭で洗濯を干していた名前に声をかける。

その腹は大きく膨らんでおり、新たな命が宿っていた。

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