部活に向かう者、帰宅する者、補習に向かう者で放課後の校内は賑やかだった。
不死川は今日使った教材を持ち、数学研究室へ足を運ぶ。

数メートル先に見えて来た数学研究室の文字、その下の扉から女子生徒が1人出てきた。
授業でわからなかった所でも聞きにきたのだろう、肩からは鞄を下げ片手では数学の教科書を抱きしめている。



「不死川先生さよーなら!」
「真っ直ぐ帰れよォ」



中に名字がいる事を確認し、扉にある“在室中“の札を片手で“会議中“に変える。

数学研究室の中には彼女1人しかおらず、名字は今日行ったであろう小テストの採点をしていた。
不死川も自分のデスクに教材を置き、明日の授業の準備を始める。

小テストに丸をつけるペンの音と共に、名字はおもむろに口を開いた。



「不死川先生って彼女にキスマーク付けた事あります?」



明日の準備がひと段落した不死川は、コーヒーを飲んでいたが思わぬ質問に口からコーヒーが飛び出した。
近くにあったティッシュで溢れたコーヒーを拭く、幸いにも明日使う白紙のテストにはかかっていなかった。



「…いきなり変な事いうんじゃねェ」
「ご、ごめんなさい、そんな取り乱すとは」



名字は赤ペンを一度置き、自分のマグカップを持って給湯室の方へ足を運びながらその発言の経緯を話し出した。

先程不死川ともすれ違った女子生徒の首筋に、キスマークがついていたのだ。普段から真面目でよく質問しにくる生徒だが時々それを付けくる。
少し下品な表現にはなるが、見た目とは裏腹にする事はしているんだなと名字は思った。



「今までの彼氏に付けてくる人なんていなかったので」



少し気になっちゃって…と続け、給湯室の中で立ちながらコーヒーを一口飲んだ。その姿がやたら艶かしく不死川は生唾を飲む。


マグカップから口を外し、自分の腕を見つめる名字。口を腕に押し付け吸い上げてみるが薄い赤が残りすぐに消える。
どうしてあんなにくっきり跡が残るんだろう、ダイソン並みの吸引力がないとあんなに残らないなと考えていると、先程まで自分のデスクで座っていた不死川が自分の前に立っていた。

狭い給湯室なので、コーヒーメーカーに近づくにはどちらかが先に出ないといけない。
そんな事をして遊んでいた自分が急に恥ずかしくなった名字は、慌てて自分のデスクに戻ろうとした。



「そんなに気になんなら、つけてやる」
「へっ?」



不死川は細い腰を抱き、自分の身体と名字を密着させ、青のストライプシャツから見える白い鎖骨に噛みつき、吸い上げた。
ちくっとした痛みと舌の感触、暖かさでぞくっとした感覚に襲われる。



「ひぁっ…」
「ほら、ついたぞ」



唾液を拭う様に親指でそれをひと撫でする不死川。顔色も変えず平然としている彼にむかつきもあるが、給湯室の銀のシンクに映る自分の鎖骨に赤黒い跡と赤く色づく顔があった。

それを見て余計顔に血が上っていくのを感じる。彼とはそう言う関係ではない、けれどそう言う感情は持ち合わせていた。

俯いていた私の顔を、彼の手が上へ持ち上げるとニヤっと笑う彼の顔が目にはいった。
あぁ、面白がられてる。
多分、彼は私が好きなのも全部見透かしているのだろう。


気に入らない、だから私から絶対に好きだなんて言ってやんない。


唇が重なりそうな甘い空気を、煉獄の大きな声と扉が開く音が切り裂いた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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