後日談A-花宮さんはハムスターです


※A…火神がキセキと契約した場合の花宮編。





突然「ちょっと出てきます」と言い放ち、どこに行くのかと問い詰めるキセキ達を颯爽とスルーして姿を消した黒子は30分後、消えた時と同じ唐突さでダイナミック帰宅した。
なんなの、お前の空間移動には雷が標準装備なの?マジ眩しい。
ちなみにキセキたちは黒子が消えた直後、集団プチパニックになって黒子の名前を叫びながら家を飛び出して行った。
お前ら少しは落ち着け。


「ただいま戻りました。…あれ?火神くんだけですか」
「あー、お前が消えた後、全員飛び出して行ったぞ」
「?何か急ぎの用事でもあったんでしょうか」
「……さぁな」


お前を心配して、とは教えてやる気がない火神だった。
寧ろキセキ暫く帰ってくんな。
久しぶりに黒子と二人きりだと、最近誰かしらに邪魔されて二人で話す機会に恵まれなかったので、降って沸いた幸運に火神は密かに口角を上げた。
ちなみに高尾は今日、部の先輩達と出掛けているので朝から不在である。


「つーかお前、さっきから何やってんの?」


ヂー!と生き物らしい鳴き声がさっきから黒子の握られている両手から聞こえてくるのがずっと気になっていた。
おにぎりでも握るように手を動かしている黒子は至って無表情だ。
「何がですか」と普段と変わらない様子の黒子に、「何を拾ってきたんだ」と問い詰める。


「拾ってませんよ。こんなの、拾うわけ無いじゃないですか」
「こんなのって」
『いいからさっさと離せバァカ!』
「?!」


いきなり聞こえた第三者の声に、火神は驚いて肩を震わせた。
咄嗟に周囲に視線をやるも、室内にいるのは自身と黒子だけ。


『どこ見てんだ。こっちだっての』


もしやまた悪魔かアヤカシだろうかと声の聞こえる方向を探ると、なんと黒子の掌の中からだった。
一瞬で据わった目を黒子に向けるが、やはり表情一つ変えやしない。
無言の攻防を続けていると、そんな状況に焦れたのか、手と手の間を縫うようにすっぽりと『ソレ』は顔を出した。というか顔だけ出した。
…ハムスター?


『フハッ!ホントに人間と一緒に暮らしてやがんだな、テツヤ!』
「おい、また変なの連れてきたのかよ」
『変なのとは何だ、テメェ!オレが誰だかわかってんのかぁ?』
「はぁ?」
「火神くんも知り合いですよ」


知り合い?と首を傾げる。
アヤカシの知り合いなんて居ない筈…と思いつつも、なんとなくその声というか喋り方に聞き覚えがあるような気がしてきて更に首を傾げた。
そんな火神に黒子はヒントを出すように「ラフプレーが得意なゲスさんです」と言う。
いや、それヒントっていうか。…って、え!?


「おま、は、花宮!?霧崎第一の?!」
『やっと分かったのかよ。鈍いな』
「口が悪いですよ」
『ぐっ、こら、止めろテツヤ!握るな!』
「お仕置きです」


むぎゅむぎゅと掌の中で握られて鳴き声を上げるハムスターの花宮だった。
花宮ってアヤカシだったのかよ。てかお前ら仲良かったのかよ。聞いてねぇ…。
本人が聞いたら全力で否定してくるだろう事を考えた火神は、とりあえず詳しく事情を聞くため、どこか楽しげな様子でおにぎりの刑を執行する黒子に静止を呼びかけた。





黒子曰く、花宮とはここ200年ほどの付き合いになるらしい。
偶然この辺りで知り合い、それ以来ちょっかい出してくる花宮を丸めたり握ったりコロコロしたりして遊んでいたそうだ。
ここでツッコミを入れなかった俺は偉いと思う。
そして黒子が人に化けてバスケを始めたと知り、自分も便乗したらしい。
それでどうしてラフプレーに走ったのか。
単に性格が悪いだけですよ、と呆れた顔をしてそう言った黒子は、パイプ迷宮(黒子作)の中でうろうろおろおろする花宮を見てニヨニヨしていた。
どっちが?とは聞かなかった。
今日は木吉先輩の定期健診だと思い出して、ついでに足の件でお仕置きもまだだった事を思い出し、花宮を襲撃に行ったらしい。
思い立ったら即行動、とは、まぁらしいと言えばらしいが。
そして現在に至る、ということだ。
木吉先輩の件は俺も腹が立っているからお仕置き云々は全力で構わないが、一つ聞きたい。
なぜそいつを持って帰ってきた。
その辺に捨ててくれば良かったのに。
そうすれば今頃は黒子と二人でのんびりお茶でもしながら有意義な時間を過ごしていただろうにと、火神は大きく溜息を落とした。


「どうしました?話で分からないところでもありましたか?」
「いや、それは大丈夫だ」


ちなみに迷宮を何とか脱出した花宮は今、足元を転がりまわっている。
半透明の球体に入れられてコロコロする悪童…シュールだ。
あれがハムスターボールってやつか、と火神はそっと視線を逸らした。


「あれってハムスターには危険なんじゃなかったか?」
「大丈夫です。本物のハムスターじゃないので。パニックになる事もないですしね。…見てください、あのふてぶてしさを」


言われて視線を戻した先では、ボールの中で、仰向けに寝ころんでだらけている花宮が居た。
つーか、ハムスターが足を組むな。
さっきまでカーペットの段差を乗り越える事が出来ずに四苦八苦してた癖に、随分と大人しくなったものだ。
ただ単に疲れただけかもしれないが。
ちなみにあのハムスターボールは黒子の力によって出来ているので自力では出られないらしい。


「ふふ…こうしていれば可愛いのに、勿体無いですねぇ」
「…まぁ、ああしてれば只のペットだよな」


しかし中身は最低最悪な男である。可愛げなどありはしない。
というか、あれの本性がこんな小動物って詐欺だろ。
いくらアヤカシだってもっと何かあっただろ!狸とか!寧ろ狸だったら納得したわ!
実際はハムスター(?)が何故か突然変異でああなったのだが、そう思わずにはいられない火神だった。狸に失礼である。


『ぎゃああああ!!テ、テツヤ、テツヤ―――!!!』


突然上がった花宮の叫び声に、驚いて視線を向けた先に居たそいつを見て火神は固まった。
いつ帰ってきたのか、リビングのドアの隙間から夢に出そうなほど恨みがましそうな目でこちらを見ている赤司が居たのだ。
怖ぁあああああ!ホラーかよ!!


「…毛があるくらいで…いい気になるなよ…」


な、何かブツブツ言ってるし!悪魔怖ぇ!!
凄い勢いで此方に転がってきた花宮inハムスターボールは俺の足を轢いて黒子の足元まで移動していた。


『なんだよアイツ!?』
「なんなのアイツ!?」
「息ぴったりですね、二人とも。それと、お帰りなさい赤司くん」
「…僕だって…その気になれば毛皮くらい…くらい…」


毛皮?…そういやこいつ、毎朝のブラッシングで一人だけハブられてんだっけ。
黒子が最近日課にしている事に悪魔たちのブラッシングがあるのだが、どうやら赤司の本来の姿は毛がないらしい。
俺は見たことがないので良く分からないが、聞いた話によると龍に近い形状を持っているらしい赤司は、毎朝至福な表情で黒子のブラッシングを受ける黄瀬たちをいつも静かに眺めていた。
が、どうやら強がりだったようだ。
思った以上に自身がもふもふしていない事に凹んでいたらしい。というか拗らせている。


「…毛なんて丸刈りしてやる…そうすれば皆一緒だ…テツヤに可愛がられるもふもふした生き物なんて皆スフィンクスになればいいんだ」
『こいつ悪魔だ!』


ああ、悪魔だからな。
とツッコミを入れる暇もなく赤司の涙腺崩壊と共に魔力が一気に膨れ上がり、火神は引き攣った表情で一歩距離を取る。
ちょ、おま、止めろ!また爆発\(^o^)/する気か!!
急速に危険が降り掛かりつつある気配に逃げようとしたところで、黒子は神々しい慈愛に満ちた表情で赤司に微笑みかけた。


「もふもふしてなくても、赤司くんの鱗は透明でキラキラ輝いていてとても綺麗だと思いますよ」
「テ、テツヤああああああああああ!!!!」
「来いよ、何処までもクレイバーに抱きしめてやんよ」


どこで覚えてきた、その台詞。
マイジャスティス!マイプレシャス!と更に感涙して抱きつかれた黒子は、火神と視線が合うなり赤司に見えないように親指を上げた。
あざとい黒子マジあざとい。
やりきった表情で赤司の暴走と止めた黒子は、顔文字で表すなら(`・ω・´)キリッとしていて、火神はとうとう口を閉ざした。


『ケッ!んな事言ったって俺の手触りには勝てねぇよ!バァカ!』
「……」


そこは張り合うのか。
てかハムスターの姿でドヤ顔されてもな…と微妙な気持ちで足元でコロコロするそれを眺める火神だった。





***
スフィンクス=毛のない猫

花宮の見た目はちょっと大きめのジャンガリアンかな!
ロボロフスキーとも迷ったけど!みんな可愛い(*´ω`*)
ハムスターボールは危険なので、本物のハムちゃんは入れないであげてくださいね!もう売ってないだろうけど。
ちなみに黒子がバスケ始めてから誠凛入学までは結構時間が空いてます。その間は高尾と一緒にストバスしたりして遊んでました。
ただいま黄瀬くんが迷子中。
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