漆黒のアタラクシア #22





プール練習での桃井による桃井のためのテツくん撮影会と、後に駆け込んできた黄瀬による黄瀬のための黒子っち撮影会…は5分遅れて駆け込んできた笠松の手によってデジカメ水没という形で強制終了したが、普段以上の賑やかさでその日を終えた。
ちなみに黄瀬はその日の内に防水のデジカメを購入したらしい。
試し撮りさせてほしいとの電話とメールがしつこかったが、黒子はそのお願いを、時を同じくして大量に来るかつての仲間(うち一名にはアドレスを教えた覚えはない)とその友人(草が多い)からの催促メールと共に丁重にお断り、という体のスルー中である。
そして今日、体育館で普段通りの通常練習を行っていた面々のもとにリコが紙の束を持って意気揚々と駆け込んできた。


「みんなー!決勝リーグの出場校、全部出たわよ!」


その言葉にボールをつく手を止め、集合をかけたわけでもないが、皆が揃ってリコに駆け寄る。
真っ先に傍に寄った日向に、順に回すように紙の束を渡したリコは、自身の手元に残した一枚に視線を落とした。
周りの皆にも紙が行き渡っているのを確認した後、そこに書かれているものを読み上げる。
誠凛を含めた、そこに載っている4校で代表を争うことになるという事で少し息を詰めるが、うち二つの学校名を聞きなれない人間も多く、そのせいか微妙に緊張感はなかった。
真剣な顔でブロックごとに区切られた学校名を見ていた小金井が「…思ったんだけどさー」と呟く。


「王者二校も倒したわけじゃん」
「あ?まぁな」
「今年はもしかして行けちゃうんじゃない!?」
「あ、こいつ言いやがった!」
「だって桃井ちゃんと青峰の居る王者に負けても残り勝てば…」


小金井の言い分は正しく皆が想像している通りだったためか、何人かは視線を逸らしつつも希望を抱いた表情をしていた。
けれどもそれをばっさり叩き切る様にリコが「泉真館じゃないわ」と言い放つ。


「あの二人が行ったのは桐皇学園よ」


てっきり他のキセキの世代たちと同様に王者と名高い学校へ行ったのかと思っていたところで過去の実績が殆どない学校名が挙がったことに、小金井たちはあからさまに驚愕の声を上げた。
それにちらりと視線をやった黒子は、けれども口を開く事はなく視線を紙に落とす。
桃井の着ていた制服を見て調べたというリコが桐皇学園の説明をするのを聞き流し、視線を体育館の入り口に向ける。
タイミングよく、今までクラスの掃除で遅れていた火神が靴を履き替えるところだった。
視線が合い、どちらからともなく表情を緩めて片手を上げる。
そこで他の面々も火神に気付いたようで軽く挨拶を口にする中、リコだけが訝しげな表情で火神の足に視線をやっていた。


「…火神くん…バスケ、した?」
「え、いや」
「悪化してない…?」
「…いや、そのー」


じっと見詰めてくるリコから視線を逸らして冷や汗混じりに「ちょっと…」と言葉を濁しつつも肯定した火神の顔面を、リコは間髪居れずに鷲掴んだ。


「こんのバカガミがぁっ!あっれっほっどっ!言ったろーが!その耳は飾りか!空いてんのは穴か!ただの!」
「いててて!!」


かなり力を入れているらしく本気で痛がっている火神に周りは焦りつつも、巻き添えを食らいたくないので駆け寄ることはしなかった。
すぐに手を離したリコは怒りの表情のまま、即行保健室行きと見学を言い渡す。


「ダッシュ…はムリだから逆立ちで行け!」
「え!?」


しぶしぶと言われたとおり体育館を出て行く火神を見送った黒子は、近くにいた伊月に少し抜けると声を掛けてその背中を追いかけた。





***





「火神くん」


リコに指示された通り逆立ちで保健室に向かっていた火神に追いついて声を掛ける。
すると黒子の意図を察したのか、逆立ちを止めて横に並んだ火神はそっと黒子の頭を見下ろした。


「無茶は関心しませんね」
「うっ…、分かってるっての」


どこか拗ねた様子で視線を逸らす火神に軽く溜息を一つ。
保健室までの道程を歩きながら、ちらちらと黒子を窺いつつも何も言わない火神に黒子は少しばかり大袈裟に肩を竦めて見せた。


「別に言いたくないなら言わなくてもいいですよ」
「バレバレかよ」
「火神くんが分かりやすいだけだと思いますけど」


眉間に皺を寄せて、傍にあった黒子の手を取った火神はそれに自身の指を絡めながら軽く引っ張る。
それだけで傾く黒子の体を揺るぎなく抱きとめて、表情を崩さないまま首を傾げる黒子の頬を摘んだ。
柔らかい感触を気に入って揉むように力を入れていると、ぺしりと無言で額を叩かれた。


「青峰とやった」
「…なるほど」


黒子はその一言だけで結果が分かったらしく、火神もそれを察してか苦虫を噛み潰したかのように表情を歪めた。


「俺の光は淡すぎるだの何だの、腹立つヤツだったぜ」
「それはまた、青峰くんも面白い事を言いますね」
「どこがだよ」


いつのまにポエムに目覚めたんでしょうかと可笑しそうに笑う黒子に、火神は身振り手振りを加えつつ、いかに青峰が傍若無人であったかを伝える。
その内容に、青峰の人格を知っている黒子は然もありなんとばかりに頷き、「青峰くんらしいですね」と苦笑してみせた。


「あれで通常通りなのかよ」
「まぁ青峰くんですから。それで、その後はどうしたんですか?」
「なんか誰かからメール来たらしくて、それ見るなり『さつきズリー!』とか叫んでどっか走ってった」
「………何かあったんでしょうねー」


大方予想が付いた黒子は、訳わかんねぇよなと呟く火神から空々しく視線を逸らしたのだった。





***
黒子と青峰の過去話はすでに火神にしてあるのでここではしませんでした。

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