前途多難な極彩色の軌跡 #09





昨夜のあの後、察しの良すぎる上に柔軟で突飛な発想力を持つ中学生たちによって自身がトレハンであることがバレた黒子だったが、正直あの装備でトレハンだと思われた事には納得いかぬぇー!と思っていたりいなかったりしながら現在、なぜかバスケ部の監督だという壮年の男性と主将の二人に呼び出されて対面していた。


「彼が監督の言ってた黒子テツヤですか?」
「ああ、見た目はそうでもないが、実際かなり腕がいい」


どないなっとんねん\(^o^)/
訳の分からない状況についうっかりファルコン宛てにメッセージの脳内送信を試みた黒子である。
もちろんテレパシーなんて特殊能力は持ってないので届くはずがなかった。


「俺は知ってると思うが主将の虹村だ。監督から話は聞いてる。今日から一軍だってな、おめでとう」
「What!?」


何故か髪が虹色じゃない(偏見)主将に言われた内容につい英語で声を上げたが、二人はそんな黒子を気にした様子も見せずに話を進める。
それに慌てて「ちょっとまってください!」と声を掛けたが、動揺していたため一部の発音をミスった。
―――あ、すみません監督、舞わなくていいです。
一つ咳払いした黒子が、仕切りなおしとばかりに真剣な表情を浮かべる。


「…待って下さい!どういう事ですか?」
「今日から一軍昇格って話、聞いてないのか?」
「聞いてません」
「ああ…本人に伝えるのを忘れていた。今日から一軍入りだから頑張りたまえ」


当事者が事後承諾…だと…?
これまで部活中はまさに空気のように気配を消し、さらに影を薄くして居るのか居ないのか分からないくらいのレベルで人目に付かないように頑張ってきた(頑張りどころが違うというツッコミは受け付けない)のに…まさかの一軍入り!?
黒子の顔に露骨に絶望が浮かんだが、監督は特に気にしなかった。
一方、虹村は一軍入りでこんなにショック受けるやつ初めて見た、と思いながらふと黒子の背後、少し離れたところに居る某一年レギュラー4人が良い笑顔で親指を立てているのを見て何となく事情を察した。


「あの、辞退…というのは…」
「無しだ」
「なんで僕なんですか?こう言ってはなんですが、僕は三軍の練習に付いていくのもやっとなくらい弱いので、到底一軍なんて…」


ここぞとばかりに儚げで弱そうな見た目を武器に一軍なんてムリ!キライ!シンドスギ!と某ゲームのテレビに入れるアイドルのように内心で訴えるが、そんな黒子の口から出る謙虚な台詞に流されるような監督なら初めから黒子を一軍入りさせるなんて言い出さないわけで。


「青峰に奢ってもらったバニラシェイクは美味しかったかい?」
「!」
「で、誰が弱いと言ったかな」


ここまで言われて自分ですとは流石に言えなかった。
確かに自主練という名のシェイク稼ぎ青峰たちとの交流会をしていた時に度々見られていたのは知っていたのだが、今日対面するまで相手が監督だとは知らなかったのだ。
三軍の練習ではいなかったのだから当然だろう。
背後に感じる喜々とした気配4つにうんざりとしつつも流石にこれ以上ごねても時間の無駄かと、ここに来てからの自身の運のなさに大きく肩を落としたのだった。





「テツ!一軍入りだってな!」
「おめでとー黒ちん!」
「ふん、お前の実力を考えれば当然の結果なのだよ」
「そうだな。俺もテツヤを一軍に進言しようかと思っていたしね」


一軍入りを受け入れた瞬間に駆け寄ってきて口々に喋りだした彼らに、黒子は乾いた笑みを浮かべて見せた。
ところで赤司に問いたい。昨日から気になっていたが、なぜ急に名前呼びに変えた?
じわじわ距離を詰められている気がして全力で逃げ出したいが、逃げてもどこまでも追ってきそうな気がしている黒子であった。
あと赤司にはバスケの腕前を披露した覚えがないんだが、どうして知っているのだろうか。
事と次第によっては分かってるだろうな、という目で青峰と緑間と紫原に視線をやったところ、黒子の心の声が聞こえたのかどうかは定かではないが、もれなく3人ともあからさまなまでの勢いで目を逸らしてくれたので、答えは言わずもがなである。


「とりあえず黒子の実力を見たいし、一度試合してみるってのでいいですか?」
「ああ、もとよりそのつもりだったからな」


あっちはあっちで勝手に話を進めているが、もはや文句をいう気力はない黒子だった。





監督の声掛けにより、こちらを窺いながらも各自練習に励んでいた一軍の面々が集合し、そこで虹村から黒子の紹介がなされた。
黒子の見た目に『一軍』のイメージが合わず、周囲からは不満そうな声が上がる。
それを一喝した虹村が、これからミニゲームをするので黒子の実力はそれで確認しろと言い放った。
そのお陰で大っぴらに文句の声は上がらなくなったが、そもそもそんな事は気にも止めていない赤司たちは和気藹々と話を続けている。


「じゃあ俺はテツとは別のチームな!今日こそ勝つから覚悟しろよ!」
「なら俺も青峰と同じチームに入ろう。黒子、今日こそ俺が負かしてやるのだよ」
「俺もそうしよう。そっちの方が面白そうだしね。紫原はどうする?」
「んー…俺も黒ちんに勝ってみたいかも」
「じゃ、紫原も俺らのチームな!」


まだミニゲームに参加する人間を発表していない内からやる気満々な彼らの言葉に、周囲からは「え、青峰ってアイツに勝った事ねーの?」「もしかして緑間も?」「今の言い方だと紫原もだよな?」という声が上がる。
期待の一年レギュラー4人が一斉に敵チームに名乗り出たせいで様子を伺っていた周囲がちらちらと黒子に視線をやるが、本人はそれをスルーしつつ、これはイジメだろうかと考えていた。


「へぇ、お前らがそんなに言うんならマジで強いんだ?じゃ、俺もそっち入るかな」


ぼっちワロタ。
虹村の参戦に、完全に敵チームがチートと化した。
敵5人が全員スタメンという事実のせいで、誰も黒子と同じチームになると名乗り出る人間は居なかった。ある意味当然である。


「……こちらのチームは誰でもいいので監督、あと3人補充していただけますか?」
「3人?もう1人はどうするつもりだ?」


首を傾げた監督の言葉ににっこりと笑う。
1人巻き込まれないように距離を取っていた灰崎は、そんな黒子の笑顔に不穏な気配を感じて肩を震わせる。
巻き込まれそうな予感が確信に変わると同時にこの場から逃げるために走り出したが、黒子は一足飛びで灰崎との距離を詰めて目前に立ちふさがった。


「はっはっは…どこに行こうというのかね」
「大佐あああ!…じゃねぇ!なにやらせんだ!つーか俺を巻き込むな!」
「きみのそういう乗ってくれるところ嫌いじゃないですよ」


ずるずると腕を掴んでコートに連れ込みながらそういえば、舌打ちと共に顔を逸らされた。
しかし若干耳が赤くなっているところを見ると、単に照れているだけだろう。ツンデレ乙。


「はぁ?灰崎の癖にふざけんなっての」
「崎ちんの癖に生意気じゃね?」
「灰崎…貴様…」
「へぇ…」


どうやら灰崎と黒子の会話を聞いていたらしい。
一気に闘志の増した赤司たちに、それを笑顔でほほえましげに見ていた監督とは別に、今後に一抹の不安を感じた虹村だった。



ちなみに試合では灰崎がカラフルな4人に徹底マークされて半泣きになるというアクシデントがあったものの、黒子がやけくそ気味に全力でミスディレクションしつつパス回しのみに徹し続けた結果、多少監督や赤司たちの思惑とは違ったものの黒子の一軍入りに文句をいう人間は誰一人居らず、むしろ納得して受け入れられたのだった。





From:Shadow
件名:一軍入りしたorz
本文:もうやだ遺跡で暮らしたい…
何かテンション上がる事(屮゚Д゚)屮カモォォォン


From:Falcon
件名:よし!
本文:荒ぶる鷹のポーズ!
 ヘ○ヘ
   |∧
  /


From:Shadow
件名:Re;よし!
本文:はいはいワロスワロス
〃∩ ∧_∧
⊂⌒(  ・ω・)
  `ヽ_っ⌒/⌒c


From:Falcon
件名:Re;Re;よし!
本文:年甲斐も無く頑張ったのに…
(´・ω・)つ【家族三人で同じポーズとってる画像】


From:Shadow
件名:Re;Re;Re;よし!
本文:くっそwwwwwwwwwwww





***
本編に入れられなかったトレハンバレ前の会話
「黒ちんスゲー!」「トレハンですから(キリッ」「トレハンって何だ?」「ハッ!い、いや別に」「トレンドハンサムの略?」「おしゃれさんっ!」「トレンカハンモックか」「なんか変態くさい!」「トレーナー半分?」「どういうことなの」「僕には分かるよ。トリニティハンターだね」「厨二ェ」

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