彼は神に祈る、彼女は悪魔に祈る





「もうっ!青峰くんのバカなんて知らないんだから!」


ぷん!と私は怒っているのだと態度で示して見せると、テツ君は苦笑するように少し口角を上げた。
表情の変わらない彼の、些細な変化。


「…やっぱり練習、こないんですね」
「ごめんね、テツ君!アイツ、ホント何やってんだか…」
「いえ…」


静かに伏せられた瞳は、今はここに居ない幼馴染に向けられているのだろう。
そう思うとくやしい。
私は男じゃないから、彼と同じコートに立つ事は出来ないのに。
それが出来る幼馴染はバスケに対して不真面目な態度を取り始めている。
あの夏の日の全中で、何かが変わったと思ったのはきっと私だけではない。
ううん、たぶん。

私なんかよりもずっと、彼こそが。

青峰くんの変化を痛いくらいに感じているだろう。


「なんでかなぁ」
「…なぜでしょうね」
「ホント、なんでなんだろ」


本当は分かっていて、分からないふりをする。
だって気付いている。
だって分かってる。
きっとまだ、青峰くんの望むものは手に入らないって事。
きっとまだ、私達にはどうする事も出来ないって事。


「私が男の子だったら良かったのになぁ」
「桃井さんがですか?」
「だってそしたらテツ君と一緒にバスケ出来るでしょ?」
「それは楽しそうですね」


ベンチに腰掛けたまま足を揺らして、隣に座るテツ君を見る。
静かな微笑みを浮かべて私の話を聴いてくれる彼は、ほんとうに優しいと思う。
優しすぎて、かなしい。


「ずるいよ」
「すみません」
「ずるいなぁ、男の子って」
「そうですね」


穏やかなその瞳の奥に誰を映しているかなんて明白で。
だからこそ、私に向けばいいのにと思う。
私だけを見てくれればいいのに、なんて。
幼馴染を心配しているふりをして、本当は彼の気を引きたいだけのくせに。


「私も、ずるいね」
「いいえ」
「……ずるいよ」
「いいえ、桃井さん」


ゆるりと首を横に振って、いつもの無表情にほんのすこし優しげな微笑を乗せて、彼は言う。


「桃井さんはずるくありませんよ。ずるいのは、きっと僕の方だ」
「そんなことないと思うけど」
「そうなんです」
「そうかなぁ」
「ええ」


少しきつめの風に木々が揺れる。
暑くなってきましたね、と彼は目を細めた。
きれいな横顔。
透き通るような空気。
私のすきなひと。

早く現れてくれればいい。
彼に心配させているあの幼馴染の目を覚ましてくれるくらいの実力を持つ人が。
彼の不安を取り除いてくれるような人が。
そうして彼の中の青峰くんの比率が軽くなればいいなんて思う私は、


―――やっぱり、ずるい。





***
好きな人の一番は自分がいいなぁと思う桃井さん。
黒子の中の大半を占めているのが青峰だとわかっているからこそ、『誰か』の存在を待ちわびている。
時期的には中学三年になりたてくらい?

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