Another side





練習中、相棒から受け取ったボールは高尾の手によって綺麗な弧を描いてリングに掠る事無く吸い込まれていった。
それを確認して、相棒に向かって笑顔で拳を突き出す。
苦笑した様子の相手は、けれども嬉しそうに頬を緩めて答えてくれた。
さらりと、柔らかい水色の髪が揺れる。
周りから影が薄いと言われる相棒を、見失わないのは自分だけだという事が自慢だった。
周りから『魔法のようだ』と評されるパスを、誰よりも一番受け取れる事が幸せだった。
今の三年が引退したら、スタメンで試合に出れる。
そうなればこの相棒もまた、自分と同じように共にコートに立てるのだ。
それが楽しみで仕方が無い。
早く早くと気ばかりが焦って、花宮先輩に笑われたのはそう昔の話でもなかった。いや、あれは笑われたというより哂われたんだろうけど。
木吉先輩は同じように楽しみだなと同意してくれたし、同輩の桜井は僕も頑張ります!と意気込んでいた。
相棒本人はのんびりと、時に灰崎にからかわれて鳩尾に手刀を叩き込んでいたものだ。見かけによらず、実は部内で一番手が早いのは相棒だろう。
一年からレギュラーを獲得した高尾や灰崎や桜井に、卑屈にならずに接していたのもこの相棒だけだった。
まだレギュラーでない時から一緒に練習して、自身だけが先にレギュラーを獲得したときも、相棒は「おめでとうございます」と、まるで自分の事のように喜んでくれた。
人よりも数倍の努力を重ね、ようやく彼がレギュラーの座を獲得したときは、本人以上に舞い上がってはしゃいで苦笑されてしまったが。
一緒に大会で優勝すると誓った、大切な、たった一人の相棒だ。

―――そう考えて、ふと、高尾の胸に小さな違和感が過ぎる。

本当にそうだっただろうか。
自身の相棒は、この小さな少年だったか?
この少年の相棒は、果たして本当に自分だっただろうか。
考え出すとじわりじわりと違和感が広がっていく。
初めは小さく疼く程度だったそれが、次第に大きくなって高尾の意識を侵食する。
ああ、違う。そうではない…そう思った時だった。


「高尾、くん?」


不安そうな相棒…黒子テツヤの声が鼓膜を揺らす。
その水色の大きな瞳には、高尾はどのように映っているのだろう。


「ま、さか…え?」
「黒子、これって…」


きっと自分も同じような顔をしているのだろう。
普段余り表情を変えない黒子が戸惑ったように一つ瞬く。
慌てて確認した携帯に表示された日付は、自覚しているものよりも遥かに昔のものだった。
愕然として立ち尽くす高尾と黒子は、ゆっくりと視線を合わせた。
ごくり、とどちらともなく喉を鳴らす。


「高尾くん」
「黒子」


そっと、お互いの手を重ね合わせる。
そして―――





「「逆行キタ━━━(゚∀゚)人(゚∀゚)━━━ッ!!」」





体育館を響かせるほどの喜色の絶叫に、他の部員たちはビクリと肩を震わせた。





***
→あとがきとか。

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