二周目のロシアン・ルーレット #02 「あー!青峰っち!それ俺のポテトっスよ!!」 「ちょっとくらい別にいいだろ」 「それがちょっとっスか!?三分の一は減ってるんスけど!!」 「ケチくせーこと言ってんなよ」 「食べすぎなんスよ!!自分で買ってきたらいいじゃないっスか!」 「今月写真集買ったから小遣いピンチなんだよ」 「知らないっスよ!」 「お前ら煩いのだよ!!静かにしろ!」 夏休み。黒子が居ないと知った後、悩んで結局バスケ部へ入部した俺は、今日も何時も通りの練習を終えてマジバに来ていた。 何故かキセキの世代も全員揃っている。 騒ぐ黄瀬と青峰に緑間が注意するが、お前の声も十分でかいぞ。…と思いつつも口には出さない。矛先がこちらに向いたら面倒くさいからな。 「そういえば、次の試合は花宮と木吉と灰崎が居る中学だったな」 「あー、去年はちょっと苦戦したとこか」 「誰っスか、それ」 黄瀬が首を傾げるのに、そういや黄瀬ちん居なかったねーと紫原がアップルパイを食べながら言う。 花宮と木吉と灰崎という聞き覚えのある名前に、俺はバーガーを食べる手を止めた。 つーか灰崎も黒子と同じく帝光中に居なかったな、そういえば。気にもしてなかったが。 てか木吉先輩、花宮と同じ中学に居るのかよ…大丈夫なのか? 「花宮はポジションはPG。今年三年だったはずだ。俺たちの一つ上だな。頭がよく、策略に長けている」 「あのスティールには少しばかり梃子摺ったのだよ」 「木吉はポジションはC。中学では屈指の実力者と言えるだろう。まぁ紫原には劣るが」 「当然だしー」 「灰崎は俺たちと同い年で、黄瀬、お前と同種のプレイヤーだ。お前のコピーにたいして、灰崎は相手の技を奪う」 「奪う?そんな事が出来るんスか?」 「俺らのは無理だったみてーだけどな」 「当然なのだよ」 だろうなと俺だけが覚えている過去の灰崎を思い出しつつも口は挟まず、10個目のバーガーに手を伸ばして包装紙を開く。一口齧り付き、咀嚼する。 「ま、誰が来ようと俺らの敵じゃないっスよ!」 黄瀬の言葉に不敵な笑みを浮かべた赤司に、口にこそしないが全員同じ考えなのだろう。 そんな彼らの様子を静かに眺め、二つ買った飲み物の内の小さい方に手を伸ばす。 ストローを吸い上げると冷たく甘ったるいバニラの味が口いっぱいに広がって思わず眉を顰めた。 試合当日。コートでシュートの調整をしていた時、反対側に木吉先輩の姿を見つけた俺は話し掛けるかどうか迷っていた。 向こうは俺の事を知らないわけだし、何より今は敵同士だ。急に話し掛けても迷惑になるんじゃないかと思っていると、向こうが俺の視線に気付いたらしく顔を上げた。 一度首を傾げて周囲を見回し、自分を見ていた事に気付いたのだろう、気にした様子も見せずに大らかに笑って手を振ってきた。 あの人は変わらないなと思いながら軽く頭を下げる。 隣に居た花宮が怪訝そうな顔でこちらを指差した。それに木吉先輩は首を振って答えている。多分知り合いかどうか聞かれたのだろう。 軽く頭を叩かれた木吉は、それでも楽しそうだ。 「思ったより仲良さそうだな…」 「え?なんか言ったっスか?」 不思議そうな顔をする黄瀬になんでもない片手を振り、軽く助走を付けてダンクする。 にやりと悪人面して笑った青峰が同じようにダンクを入れて、それを見た黄瀬が続いた。呆れた様子の緑間の3Pが決まり、応援席から感嘆の声が上がる。 「おお、派手だなー」 「すみません!ダンクできなくてすみません!」 「俺もダンクしてー!」 「俺は出来るぜ」 「フハッ!別に必要ねーだろ。普通にシュートしたって点数は同じだっての」 相手チームの声が聞こえて、視線を戻した。 いつのまにか木吉先輩と花宮以外も出てきていたようだ。 帝光中と違って人数こそ多くないが、かなり癖のある選手が揃っている。 というか知り合いばっかじゃねーか。残りメンバーは桜井と高尾かよ。 あいつらが同じ中学だったとは聞いたことがないから、きっとこれも前回の過去とは違うのだろう。 覚えているよりもずっと幼い彼らの姿に苦笑が零れる。 ふと、高尾の背後にわずかに水色の何かが見えた気がした。 「よっし!んじゃ、俺らも練習すっか!」 「桜井ー、パスくれ」 「は、はい!行きます!」 「テッちゃん!俺にもパスちょーだい!」 「はい」 ゴールに向かって走り出した灰崎が桜井からのパスでダンクを決め、ゴールポスト下に落下したボールは間を置かずに高尾の手に渡り、再びリングを通った。 「さっすが相棒!調子いいな!」 「高尾くんも今日は絶好調ですね」 「当然っしょ!なんたってあの『キセキの世代』が相手なんだしさ!」 「はい。絶対勝ちましょう」 こつりと、高尾と拳を当てて笑いあう、その水色を視界に入れて喉が引き攣った。 「―――黒子…」 そこに居たのかとか、記憶はあるのかとか、相棒って何だよとか、言いたい事はいっぱいあるのに行動に出れなくて、そんな自分自身に動揺する。 木吉に頭を撫でられて嬉しそうに顔をほころばせ、花宮に笑われて頬を膨らませて顔を背け、灰崎に膨らんだ頬を突付かれて鳩尾に反撃し、桜井からスポドリを受け取って礼を言う。 高尾が顎でこちらを指し、黒子はゆっくりとこちらを振り返った。 ずっと焦がれていた水色の瞳が俺を映す。 けれどもそこに宿っていたのは驚愕でも安堵でもなんでもなく、強い闘志だった。 そんな黒子を背後から抱きしめて、勝気な顔をした高尾が口元に笑みを浮かべる。目は笑っておらず、どこまでも好戦的だ。 お互いに言葉は無く、けれども理解する。 ―――こいつは自分のものだと、鷹が哂う それを許しているのは黒子自身だ。 どうしてだと、声を荒げてしまいたかった。 どうしてそこにいるんだ…お前の居場所は、俺の隣だろ。 言いたい言葉は「そろそろ試合だ。ベンチに集まれ」という赤司の指示によって、結局相手に届ける事は出来なかった。 *** NEXT - Another side - |