※逆行火神が帝光中に通うんだけど黒子が居ない話。
※赤司は中学仕様。一人称『俺』で苗字呼びです。
※火神が逆行してます。
※n番煎じカナー
※火→黒。





二周目のロシアン・ルーレット #01





いつだって思い出す。
俺にとってお前は、何よりも大切な『影』であったけれど、それ以上にどうしようもないほどの『光』だったのだと―――


「黒子テツヤ?誰だ、それ」


いぶかしむ様に眉を顰めた青峰の言葉に、呼吸の仕方を忘れたかのように息が詰まった。



***



気付いた時、俺は記憶にあるよりずっと幼い姿でアメリカに居た。
コートを走る子供に混じって、同じように自身も走る。
覚えているよりもずっと小さな掌に、短い手足。
受け取ったボールも見知ったものの筈なのに重く感じる。
混乱した頭で、けれどもシュートだけはきちんと決めて、喜ぶ仲間に一言断りを入れて俺は即座に家に戻った。
息を切らしながらバスルームに駆け込んで、鏡に映った自分自身の姿に愕然とする。


「マジかよ…」


そこに居たのは自分に間違いない。
間違いはないが、どう見たって中学生くらいの子供だった。
日付を確認して、今の年齢が13歳である事は分かった。
記憶にある自分は、すでに成人していたはずだ。プロになって数年。成績も上々で、別のチームに居る青峰とは何度もぶつかった。
勝敗は決定的ではない程度にお互い負けたり勝ったりを繰り返している。


「一体どうなってんだよ」


意味わかんねぇ、とその場で頭を抱えて座り込む。
誰かに相談するべきだろうかと思うが、けれども話せる相手など居ないだろう。
自分自身でさえ何が起こったのか分かっていないのに、今の状態で人に話しても、正気を疑われて病院に連れて行かれるだけだ。


「つーか13歳って…、…」


13歳ということは、日本では中学に入学している年齢だ。
中学一年…確か青峰たち『キセキの世代』の内、黄瀬を除く4人は一年の時からレギュラーだったと聞いている。


『ほんとうに、すごい人たちです』


そういって小さく笑った黒子を、あの頃は何となしに見ていた。
俺には難しい本を読んで、言い回しが難解で、表情が乏しいかと思えばそうでもなくて。影が薄いくせに苛烈で、頑固なくせに寛容で、時に穏やかに隣に在った俺の相棒。
帰れるときには日本に戻っているが、それでもあの頃に比べて格段に会える頻度は減った。
かつては隣に居ることが当たり前だったのに、今では週に一度メールをするかしないかだ。
大人になるって事はそういうことなのだと、ちゃんと分かっている。
けれども時折ひどく寂しくなるときがあって、その感情を飲み込む事も多い。
過去があまりにも充実していたからこそなのだろうと苦笑したのは一度や二度じゃない。
今に満足していないわけじゃないけど、足りないと、そう感じる事は間違いではないのだろう。
それほどまでに、黒子の存在は俺の中に根付いている。

今、俺がここにこうして戻ってきた理由なんて分からない。
原因さえ思いつかない。
ならば…好きに動いてもいいんじゃないか?
もう一度、あいつと同じコートに立つことを、望んでもいいんじゃないか?


「親父!俺、帝光中学に行きたい!」


仕事中であろう父親に気を使うことさえ思いつかず、ただただもう一度と、それだけを願った。





時間は要したが何とか二年に上がる頃には日本行きを取り付け、意気揚々と帝光中学に転入したその日。
授業が終わるなりバスケ部一軍レギュラーが使用しているという第一体育館に駆け込んだ俺は、そこで冒頭の台詞を聞いた。


「…は?冗談だろ?黒子テツヤだぞ?」


動揺のあまり震えた声に、けれども青峰は気付かなかったようだ。
黒子テツヤ、ねぇ…と考えるようにボールを指先で回した青峰は、そのまま適当に後ろ向きに放り投げる。
ボールは疑う事無くリングの中央をすり抜けた。


「やっぱ知らねーわ。誰だよそれ。つーかお前が誰だよ」
「ああ、今日転入してきた火神大我だ…って、俺の事より!黒子だ黒子!本当に居ないのか!?」
「だからそう言ってんだろ。少なくとも一軍には居ねーよ」


それよりお前強いのか?と聞かれ、頷く。
混乱した頭でもバスケは普通に出来た。
こっちはプロにいた経験があるのだ。
いくら青峰が強いといっても中学生。それに今の自分の体がまだ完成していないものでも、それは相手も同じ事だった。
大人の青峰と対戦してきた俺から言わせれば、今の青峰はまだまだだ。


「青峰っちが負けた…?」
「うっそー」
「…あれは誰なのだよ」
「……へぇ。興味深いな」


いつのまにか揃っていたキセキの世代。
その中に、やはり会いたい色はない。
青峰にした質問と同じものを彼らにもぶつけるが、帰ってきた答えは「知らない」ただそれだけ。
何の感情もなく、何の関心もない。
黒子テツヤという存在はこいつらの中には無いのだ。
それが無性に苦しい。あれだけお互いを想い合っていたはずなのに。
一体どうなっているのだろう。
どうして黒子が居ない?こいつらも、どうして知らないんだ。
たしかにあいつは影が薄くて、多分この時期はまだパスしか出来ないだろうけど、それでも十分に凄い奴なのに。

もしかしたら三軍にいるかもしれないという小さな希望は、赤司や桃井の「バスケ部にそんな名前の生徒は在籍していない」という一言に砕かれた。
慌てて職員室で担任の教師に聞くも、学年名簿にさえ名前はない。
つまり、帝光中学に黒子は存在していないのだ。


「なんでだよ…」


意味が分からなくて、子供のように声を上げて泣き喚いてしまいたかった。





思いつく限りの場所を駆け回って探すも、どこにも黒子の姿は見えない。
学生時代によく行ったマジバも、ストバスコートも、コンビニも本屋も靴屋も。
あいつが行きそうな場所、居そうな場所を目を皿にして探し回った。
けれどもその影を欠片として捉える事は出来なかった。
足取り重く、自宅への道を歩く。
黒子の自宅があった場所には違う人間が住んでいた。
ここは、俺の知っている過去ではない。
なら、もしかしたら黒子は存在していないのだろうか。
想像して血の気が引いた。
震える指先をきつく握りこみ、そんなことはないと首を振って否定する。


「どこに居んだよ…黒子…」


吐き出した言葉を拾う人間は居らず、ただ風に流れて消えるだけだった。





***
逆行火神in帝光中。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -